固定概念にとらわれない智辯和歌山の「中谷流改革」。今夏、日本一で再び黄金期の予感

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo yoshiyuki

 グラウンドの部分で大きく変わったのは、細かいサインプレーを導入したことだ。タイブレークにもつれ込んだ2019年の甲子園での星稜(石川)戦では、13回裏無死一、二塁の場面で一塁手と三塁手が投球と同時に突っ込み、二塁手が一塁ベースへ、遊撃手が三塁ベースに入る"ブルドッグシフト"を見せた。

 そしてこの夏、智辯学園との決勝では、4回裏無死一、二塁で一塁手と三塁手が突っ込み、遊撃手が三塁ベースに入ってブルドッグシフトと思わせ、二塁手が二塁ベースに入るピックオフプレーを使った。いずれも、高嶋前監督時代にはやらなかった策だ。

「細かいプレーを大切にしている監督です。こうしたプレーができるからこそ、勝利につながっていると思います」(一塁手・岡西佑弥)

 また、高嶋前監督の時は先攻を取るのがパターンだったが、中谷監督は違う。今夏の和歌山大会は5試合中4試合が後攻。甲子園ではすべて先攻だったが、中谷監督はこう説明する。

「ずっと後攻を取りたいと言って、宮坂(厚希)キャプテンがじゃんけんに行くんですけど、全試合負けました(笑)」

 そのほかにも、高校野球界に一石を投じるようなことを取り入れている。それは攻撃前に円陣を組むことはほとんどないことだ。これにはこんな理由があると、中谷監督が教えてくれた。

「高校野球はどんどんイニングが進んでいくというのが、一番感じたこと。僕は選手の役に立つことを言える自信がない。全員に当てはまる言葉を言うなんてできない。それだったら各自で準備してくれたほうがいい。僕らの時代と違って、レガース、エルボーガード、バッティンググローブなどつけるものが多いので、準備遅れをしないようにしないといけません。よほどの時以外は(円陣を)やりません」

 伝えたいことがある時は、監督自ら選手のところへ行って話をするようにしている。

「次の回の先頭打者の攻め方をキャッチャーと話したり、ピッチャーに『どうや』と聞いたり、代打の選手に『ピッチャーはこうやぞ』と言ったり......。ベンチで動き回って、しゃべりまくっています」

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