「こんなにいい投手だったとは...」。甲子園のマウンドで躍動した将来性抜群な3人の逸材

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 うなったのは2回戦の新田(愛媛)戦だ。じつは、「甲子園で一世一代のピッチング」はよくあることで、ヴァデルナにとっても初戦はそれかと思ったのだが、中10日のマウンドだというのに、まったく変わらない投げっぷり。

 一見、気弱そうな顔つきにだまされてはいけない。芯が強く、ピンチになっても迷いなく投げ込める度胸と技術。身体だって85キロのわりに線は細く、まだまだ筋肉もつくはずだ。そうれすれば140キロはゆうに超えてくるだろう。

 英語が堪能で、学業成績も優秀と聞く。もし進学希望なら、4年後、ドラフト1位候補になっている可能性は大いにある。

 この夏の甲子園で打線の迫力でいえば、盛岡大付が頭ひとつ抜けていた印象がある。1番から6番までの平均身長は180センチを超え、高校通算50本以上のスラッガーが3人いるなど、超強力打線だった。

 そんな超高校級の打線に初戦で挑んだのが、鹿島学園(茨城)のエース・薮野哲也(3年/右投右打)だ。彼のことは今年の春に少し見たことがあったが、線の細さが印象に残ったぐらい。だから、超高校級の打線に相手にかなり分が悪いのではと思っていた。

 ところがマウンドに上がり、投球練習を見て驚いた。糸を引くような快速球が捕手のミットを叩き、スライダー、チェンジアップのキレも抜群。春とはまったく別人の姿に度肝を抜かれた。

 盛岡大付のリードオフマン、高校通算55本塁打の松本龍哉をもっとも警戒していたのだろう。両サイド低めに140キロ前後のストレートとスライダーが決まる。「そんなに飛ばして大丈夫なの......」と心配したが、そんな調子で次々と強打者を打ちとっていく。

 腕が長く見えるのは、スリムなシルエットのせいか。その長いリーチが心地よくしなる。ストレートと同じ腕の振りからスライダー、カットボール、チェンジアップがくるから、バッターはタイミングが取れない。

 4回に二死からヒットと四球でランナーをため、盛岡大付の6番・平内純兵に特大の一発を浴び、「1球の怖さ」を痛感したことだろう。

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