智辯和歌山・伊藤大稀が中学時代に起こした奇跡。野球部をつくった仲間たちへの想い (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 その代わり、チームメイトの連帯感は抜群だった。笠田中に入ってから野球を始めた近藤勇輝さんは言う。

「ミスしても『何やってんだ!』と怒られることはなく、みんな『ごめん、ごめん』と言い合う感じ。声をかけ合って、カバーすることを考えていましたね」

 練習が終わっても、近くのグラウンドに集まって再び野球を楽しむ。それほど野球にのめり込んだ結果、笠田中の選手たちはアイコンタクトで通じ合えるほど連係プレーが洗練されていった。

 2年生になると、ある異変が起きた。伊藤の身長が急激に伸び、パフォーマンスも一気に向上したのだ。伊藤は中学時代、こんな実感を語っていた。

「小学生のころはみんなに負けていたのに、中2くらいから急に体が大きくなって、ボールが速くなったんです」

 伊藤がエースに君臨した笠田中は2018年春の全日本少年軟式野球大会、夏の全国中学校軟式野球大会と、全国大会に春夏連続出場する。部員わずか13名の笠田中は、ひときわ異彩を放った。

 高校では散り散りになった笠田中のメンバーだが、今もSNSのグループチャット機能を通して交流を続けている。近藤さんは故障のため高校での野球継続を断念したものの、陰ながら名門校で奮闘する伊藤を応援していた。

「大稀はあまり試合に出てなかったけど、智辯和歌山やから簡単には出られんよな、甘くはないよなと思っていました。智辯は硬式(クラブチーム)上がりの子が多くて、大稀はランクが一番低かったみたいで。でも、大稀は黙って練習するタイプ。高校でも真剣にやってるのは伝わってきました」

 高い壁に跳ね返される日々を過ごしながらも、伊藤は強気だった。夏の決戦を前に、伊藤は笠田中野球部のグループチャットにこんな書き込みをしたという。

「笠田中のみんなの思いを背負ってやるから、見ててくれよ!」

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