高校野球史に残る超ファインプレー。大阪桐蔭が強風をも味方につけて「東の横綱」に圧勝 (3ページ目)

高校野球史上に残る大ファインプレーを見せた大阪桐蔭・井上大この記事に関連する写真を見る　試合は序盤から大きく動いた。１回裏、大阪桐蔭は無安打で１点を取り、なおも満塁から白石、足立昌亮の連打で３点を先制。しかし直後の２回表、白石が警戒した豊田に内角ストレート、三澤にはスライダーを二塁打されるなど２点を返され１点差。だが、その後は膠着し、試合は６回に突入する。

　17時の時点で風速は13メートルまで強くなっていた。この回先頭の豊田への配球について、白石は「自分のミス」と振り返った。

「長打はないだろうと思っていたし、ランナーもいなかったんで、インコースのストレートで攻めきればよかったんですけど。スライダーを読まれて、甘く入って......」

　２ボール１ストライクからの４球目、真ん中に入ってくるスライダーをジャストミートされた。

「あぁ......いったわ」

　白石は観念するようにうなだれた。

「ホームランやな、これは。どこまで飛んでいくんやろう」

　和田も茫然とレフト上空を見上げた。しかし、同点を覚悟したのもつかの間、目線を下げるとレフトの井上がフェンスに向かって走り出していた。

「自分でもあの時、なんで打球を追ったのかわからないんです」

　井上は、練習でも「自分の頭を越える」と確信した打球を無理に追うことはなかったという。しかも豊田の打球は、エースが「どこまで飛んでいくんだろう」と、半ば感心するほどの完璧な当たり。いつもならあきらめていたはずだが、井上は無意識に追っていた。オーバーフェンスだと思いながら、上空に舞い上がったボールを確認する。

「あれ？　戻ってきてないか」

　まるでスローモーションの映像を見ているかのように、打球の勢いが失われているのを井上は感じたという。

「もしかしたら捕れるかもしれない......」

　とはいっても、目の前にはフェンスが立ちはだかっていた。

「もうとっさの判断ですね。『フェンスに登ったら捕れる』とかじゃなくて、気づいたら登っていて、クラブを出したらボールが入っていたって感じでした」

　固唾を呑みながら、まるで時が止まっていたかのように井上を見届けていた大観衆が歓声を轟かせた。甲子園史上に残る大ファインプレー。