強力打線がフライアウトを連発。169センチの新田のエースが見せた非凡さ (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 強力な静岡打線は、平凡に見える向井をなぜ打ち崩せなかったのか? 試合後、静岡の池田新之介監督は語った。

「守備からリズムを作ることができなかった。向井くんのボールを絞りきれず、とらえきれずに試合が進んだ」

 一方、愛媛大会では背番号1をつけてマウンドにも上がった捕手の古和田大耀は、向井のピッチングについてこう言う。

「ストレートは130キロ台ですが、向井はボールの回転数が多いピッチャー。バッターの手元で伸びてきます。緩いカーブを投げさせるのは、バッターの体感速度が変わってくるからです」

 回転数の多さは、肉眼ではわからない。しかし、フライアウトの数がそれを証明している(27アウト中、15がフライアウト)。

 試合が動いたのは中盤。新田が2-0とリードしたまま迎えた7回裏、静岡の打線が向井をとらえ始めた。3本のヒットを集めて同点に追いつき、なおもワンアウト一塁。ここでビッグプレーが飛び出した。静岡の9番・山岸廉尊が放った左中間の打球を、センターの長谷川聖天がダイビングキャッチ。素早く立ち上がって一塁に送球してダブルプレーを完成させた。

 8回表、その長谷川がヒットでチャンスを広げ、2番の入山雄太のタイムリーヒットを呼び込み4-2と再び勝ち越す。そのまま新田が逃げ切り、夏の甲子園初勝利を挙げた。

 新田OBで、コーチ、監督を長く務める岡田監督は、涙をにじませながら試合後インタビューに答えた。

「新田高校に関わる人たちの思いがこの試合に出たと思います。校歌を聞いた時は感無量でした。冬から春にかけて、高須くんのような全国屈指のピッチャーを甲子園で打つために、速いストレートに打ち負けないように練習してきた、その力を発揮できました」

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