「プロ野球選手→高校監督」の先駆者・大越基の信念。「甲子園出場=いい指導者という考えはない」 (2ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 text & photo by Inoue Kota

 同年秋に監督に就任し、現在に至るわけだが、自身が高校野球の指導者を志した当時に比べ、必要な工程が大幅に短縮された現況に思うところはないか......。そう投げかけた際の返答が冒頭の言葉だった。大越は言う。

「時々聞かれるんですけど、『自分の時代は大変だったのに!』などの憤りはまったくないんです。補足すると、今では(資格復帰のためにNPBが実施する)講習会の講師もしていますし、高校野球界に元プロの方々が増えるのを待ち望んでいた感覚もありました。自分は規定上、2年間指導に携われない時期があって、あの期間があると(指導者を目指す人は)増えていかないと思うんです。大学で教員免許を取って、さらに学校に入って『教諭として2年』。やっぱり大変ですよね」

 自身の歩んできた指導資格復帰の道のりを回想し、こう続けた。

「でも、自分にとってはその2年間がよかったと思っています。いろいろな面での準備期間になりました。現行の制度の場合、その準備に充てる時間がないじゃないですか。いきなり指導現場になる。自分の場合は、大学に通った期間を含めて、約5年間、学ぶ時間をつくれた。今は『資格復帰が簡単になった』と言われるけれど、『簡単なほど難しい』とも思うので、違った難しさがあると感じます」

 自身が指導現場に身を投じた際に直面した"壁"はなんだったのか。こう質問を向けると、大越は間髪入れずに言葉を紡いだ。

「生徒指導です。ウチ(早鞆)だからこその苦労、進学校なら進学校の悩みがあって、学校によって苦労する、苦しむ部分は違うと思いますが。自分はたくさん生徒指導で失敗しましたし、たくさん頭も下げました。さらに言うと、自分が監督になった当初と比べて、教育現場に求められることや向けられる目も変わっていて、そういったことから来る難しさもある。高校野球は技術指導と並行して、生徒指導を考える必要がある。自分も今でも苦労していますが、いきなり現場を任される方々は、もっと大変だと思います」

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