大阪桐蔭の「絶対に負けられない戦い」は乱闘寸前の遺恨試合になった (2ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Okazawa Katsuro

 試合には玉山、井上、萩原、澤村通、光武敬史の5人がスタメンで出場していた。途中出場の元谷と和田を合わせれば7人。屈辱は否応なくチームに植えつけられていた。

 こうして迎えた91年夏の北陽戦。前年のリベンジへ、選手たちは血沸き肉躍るような興奮を抑えきれなかった。玉山が回想する。

「1年前に『やられた!』という悔しさがあったんで、北陽の試合は燃えましたね。大会前のミーティングで『変な考えを起こさんと、一戦一戦、大事に戦っていこう』って言っていたのに、あの試合はみんなスイッチ入ってもうたんです。僕も含めて『やり返したる!』って感じでね」

 2回戦まで機能していたリミッターが効かなくなったことには、ほかにも理由があった。

 まず、序盤に試合が大きく動いたこと。先発の和田は本調子とはほど遠く、1回表にいきなり3点を献上し、3回にも2点を追加された。この回終了時点で3対5。ここで和田は降板するなど、チームは劣勢に立たされていた。

 また展開以上に大阪桐蔭の選手たちを燃えさせたのが、北陽の先発が寺前の弟・悦弘だったことだ。試合開始から激しい野次をマウンドに集中させるも、相手も負けじとインハイにボールを投げ込んでくる。

 とりわけ標的にされたのが、7番・白石幸二と8番・足立昌亮の下位打線だ。

「インコースは当たり前。顔の近くにも放られたんで、『次からは投げさせへんように』って威嚇の意味もありました」

 白石が寺前に詰め寄るそぶりを見せる。大阪桐蔭ベンチのボルテージが高まり、煽り声も勢いを増す。だが相手も委縮せず、続く足立もインコースを厳しく突かれた。

「なめられたらアカン!」

 足立も白石と同様のリアクションを取ると主審に止められ、監督の長澤と部長の森岡が注意を受ける。物々しい雰囲気が漂っていた。

 審判の大阪桐蔭を見る目がより注意深くなる。判定はあくまで公平だったが、選手目線では不服だった。そして、極めつけと言える場面が玉山の打席で起こった。

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