対戦打者も記者も驚きを隠せず。八王子の「和製ランディ・ジョンソン」はモノが違う (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 この日、羽田の最高球速は146キロだったという。だが、羽田のボールにはその数字以上の加速感と球威があった。もっと物騒な言葉を使えば、殺気すら感じた。

 しかも、このボールは「7~8割の力感」で投げられたものだった。

 羽田にとってこの日のマウンドは、今年2イニング目の登板である。八王子の安藤徳明監督が明かす。

「去年の10月中旬に『ヒジが痛い』と言い始めてから、今年の2月までノースローでした。2週間くらい前にブルペンに入るようになって、3月31日に練習試合で1イニング投げただけです」

 調整段階でのマウンド。ヒジへの負担の大きいスライダー系の球種はまだ実戦で封印している。安藤監督は「7~8割くらいの力で体を使って、『これでも抑えられるんだ』と勉強してほしい」と起用を決めたという。

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 ところが、試合中盤にブルペンに入った羽田は、久しぶりの公式戦ということもあって気分がたかぶり、豪快に左腕を振って全力投球を始めてしまった。安藤監督は慌てて「約束と違うから投げさせないぞ」と釘を刺している。

 試合後、羽田に今日の自分のボールをどう評価するかと聞くと、淡々とした口調でこんな言葉が返ってきた。

「少し上体に力が入っていたんですけど、ボールの回転自体はよかったと思います。7~8割の力感でも秋と同じくらいのスピードが出ていたし、キレもよくなっているなと」

 メディアの大人たちを前にしても、上ずることもなく常にニュートラルな受け答えだった。

 ノースローだった冬場は、体づくりに時間を割いたという。

「ランメニュー、ウエイトトレーニングをやって瞬発力を上げて、体幹も全体的に鍛えました」

 身長は191センチで止まり、体重は昨秋までの80キロから今は86~87キロまで増えている。

 八王子は2016年夏に甲子園初出場を果たした際、「ありんこ軍団」というチームスローガンが話題になった。たとえ戦力は小粒でも、ありの如く連帯して巨大な敵を打ち破る。そんな意味合いがスローガンに込められている。

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