元プロコーチもホレた天性の逸材。21世紀枠の快腕がいよいよ甲子園デビュー (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 そんな中村が2019年春に出会ったのが、福島という原石だった。

 身長180センチ半ばの長身ながら、ひょろひょろとして体に厚みがない。そして中村が目を見開いたのは、福島の投球フォームに強烈な「角度」があったことだ。

「こちらは何も教えていませんが、蓮は腕が真上から出てくるんです。バッターからすれば、2~3階からボールが落ちてくる感覚でしょう。低めに決まったら絶対に打てない、立派な武器です」

 そして、仲間と楽しそうに練習する姿から、福島がいかに野球を愛しているかが伝わってきた。

 入学して間もない4月、練習試合の補助としてボールボーイをしていた福島は、隣にいた中村に突然、話しかけてきた。

「渉さん、投げたいです」

 1年生の直訴に困惑し、その場では「投げさせるわけないだろ」と答えた中村だったが、内心では感心していた。

「普通は入ったばかりの1年生が、大人にそんなことを言えないですよね。この子は物怖じしない、投げたがりなんだなと伝わってきました」

 だが前述のとおり、中村は福島を1年間は投げさせないプランを考えていた。実際には登板機会を与えたものの、極力抑えた。その理由は「蓮を次のステージに送るのが自分の使命」という考えがあったからだ。

「蓮の体はまだ発育途中で、筋力も弱い。股関節の使い方が硬くて重心移動も難があったので、肩の柔軟性だけで投げていると感じました」

 当面は短距離ダッシュや自重トレーニングによるメニューを中心に課したが、中村は「蓮は投げたがりだから嫌だったと思いますよ」と笑って振り返る。

 福島を投げさせなかった背景には、中村自身の苦い経験があった。高校時代、中村には「140キロを出して、プロに行きたい」という目標があった。2年秋には球速が130キロ台中盤に達しており、冬場の精力的なトレーニングの効果も実感していた。

「自分で言うのもなんですがすごいボールを投げていて、『このまま勝負できたら、俺、面白いことになるな』と感じていたんです」

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