野球部に残る女子マネへの偏見。選手との会話で感じた男女平等への課題

  • 樫本ゆき●取材・文 text by Yuki Kashimoto

『特集:女性とスポーツ』第9回
準硬式野球の女性登用とマネージャーの本音

 3月8日は国際女性デー。1975年に国連によって制定されたこの日は、女性たちによってもたらされた勇気と決断を称える日だ。スポルティーバでは女性アスリートの地位向上を目指し、さまざまなテーマで「女性とスポーツ」を考えていく。

 今回取り上げるのは、硬式野球、サッカー、バレーに次いで、大学スポーツで4番目に多い約1万1000人が競技する「準硬式野球」。加盟73大学、約3000人が所属する関東地区連盟で、初の女性理事が誕生した。70年以上歴史がある準硬式で、現在「女性の地位向上」が見直されている。山田善則理事長の言葉や、女子部員2人が話す本音から、野球界のバイアス、ジェンダーレスについて考える。

関東地区大学準硬式野球連盟で活躍する女子学生委員たち。今回は中央左の小栁あい花さん、中央右の渡邊ももさんが取材に応じてくれた photo by Yuki Kashimoto関東地区大学準硬式野球連盟で活躍する女子学生委員たち。今回は中央左の小栁あい花さん、中央右の渡邊ももさんが取材に応じてくれた photo by Yuki Kashimoto

 #ウーマン川柳というハッシュタグがSNSで話題になっている。

「俺は無理」選べていいね、家事育児。

結婚か、介護でどうせ、辞めるやろ?

 悲哀で笑えるサラリーマン川柳の作風とは一変して、世の女性たちの心の叫びのようなものが並ぶ。徐々に改善されてきているとはいえ、「女性の尊厳」を考えたとき、野球界ひとつを見てもまだ旧態依然としたムードが漂っているように思える。

 たとえば、だ。「女子マネージャーは裏方に徹するもの」。そんな思い込み、先入観を私たちは持っていないだろうか? すべての野球部に当てはまるわけではないが、野球部員を陰で支えるのが女子マネージャーの姿。献身、自己犠牲こそが美徳。そんなバイアスに陥っていないだろうか。今まで何となく見過ごされてきたこの問いを、改めて見つめ直そうという動きが、準硬式野球の中で起こっている。74歳の山田善則関東連盟理事長の言葉から紹介する。

「女性の大学進学率は長期的に上昇していて、2017年の男女共同参画局のデータでは、男子の55.9%とほぼ同等の49.1%。大学生の半分が女性という数字が出ています。それなのに女性が打ち込める体育会系の部活は、圧倒的に少ない。我が関東連盟には約3000人の部員がいて、そのうち女子マネージャーは約150人です。この150人の価値を高め、優秀な人材として社会へ送り出すシステムを作ることにしました。その第一弾が、女性理事の登用です」

 2月28日、関東連盟理事会で連盟初の女性理事が誕生。就任した明治大学準硬式野球部出身の及川暁子さんは、女子マネージャーを経て一般企業に就職。主婦、母親でもある50代の女性である。部員時代は練習着の洗濯や裏方仕事、選手の要望があればボール出しなどの練習補助に追われる日々だった。「女子マネの経験で成長できた」と話す。

 及川さんの就任には「女子部員が活躍できる新しい野球界」を創りたい、という連盟の思いがある。山田理事長は「フラットに女性の価値を見られるのは、女性のほうが向いている。豊富なキャリア経験のある及川さんに、女子部員たちの中から社会のリーダー候補を発掘、育成してほしい」と期待する。ゆくゆくは政府目標でもある「女性管理職30%登用」に倣って、女性理事を増員することも検討中。「ジェンダーフリーな準硬式」を含め、社会情勢に柔軟に対応できる組織を目指す。

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