山田高校はなぜ履正社を撃破できたのか?「公立の奇跡」の舞台裏 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 チームとしてのテーマは「自主自立」。トップダウンをやめて、選手からの意見を吸い上げるボトムアップ方式に取り組んだのは現チームから。まだ試行錯誤の段階ながら、その過程で先に大きな結果が出たことに、本人たちも戸惑っているのが実情のようだ。

「『浮かれたらあかんぞ!』とは言っていますけど、高校生ですから、そこは浮かれるところもあるでしょう。突然ネットで話題になり、テレビでも取り上げられて、スポーツ紙でもまさかの一面......。僕自身も怖いくらいの反響に頭がついていってないですから」

 大金星の翌日のスポーツ紙には「公立の奇跡」の大見出しに、勝利直後にマウンド付近で抱き合う選手たちの写真が大きく使われていた。その紙面には、秋の戦いの軌跡も掲載されていた。今回の秋季大会は無観客で行なわれ、4回戦まではマスコミ取材もなし。そんな人知れず勝ち上がった戦いのなかに、いくつものドラマがあった。

 なかでも「もしあの試合で......」と目が向くのが初戦(2回戦)の桃山学院戦だ。試合はフォアボールにミスも絡む「新チームによくある泥試合」(金子監督)となり、延長10回の末に山田が7対5で勝利を収めた。

 この試合で山田の運命を左右するプレーが、5対5の同点の9回裏の守りであった。相手の先頭打者がレフトオーバーの打球を放ち、一気に三塁を狙った。中継のショートからサードへの送球がショートバウンドとなった。ベンチから見ていた金子には「ノーアウト三塁や」の思いが頭をよぎった。しかし、難しい送球を三塁手の富永大朗が落ち着いて捕球しタッチアウト。絶体絶命のピンチを未然に防ぐと、直後の10回表に2点を勝ち越し、初戦を突破したのだった。

「あれがなかったら、今はなかった」と振り返ったワンプレーには、「じつは......」と金子監督の言葉が続いた。

 山田では普段、キャッチボールの最後にショートバウンドやハーフバウンドなど、相手の捕りにくい球を投げて捕球する通称"さばき"と呼ばれるメニューがある。金子監督が「この球を捕れるかどうかで試合の流れが変わるんやぞ!」と選手たちに口うるさく言いながら取り組んできた成果が出たビッグプレーだった。

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