山田高校はなぜ履正社を撃破できたのか?「公立の奇跡」の舞台裏 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Sankei Visual

 奇跡の勝利から3日後、ドラマの主役となった山田高校を訪ねた。

 グラウンドに着くと、耳にしていたものと様子が違っていた。金子恭平監督が報道陣に語っていた話では、65メートル×95メートルの校庭には野球部を含め、サッカー部、陸上部など、7つの運動部がひしめき合い、満足に使える時間はごくわずかしかないと......。だが、この日は野球部がグラウンドを独占していた。女子マネージャーに尋ねると、その理由を教えてくれた。

「試験前なので、今日はほかのクラブがいないんです」

 近畿大会の出場が決まり、野球部のみ練習となったのだろう。走者一、三塁からの挟殺プレーが繰り返され、やがて終了。この後、グラウンドいっぱいを使って打撃練習をするのか......と思っていたら、「ダウンやるぞ〜」という声が響いた。

ヒガハリ旋風なるか。公立の名将が狙う3度目の甲子園>>

 午後からの練習は早々に終了となり、選手たちは教室へ移動。近畿大会のメンバー発表と軽いミーティングを終えると、次々と学校を後にしていった。少し拍子抜けしていたところ、金子監督が"普通の公立校"の事情を教えてくれた。

「履正社との試合後、選手たちが当面のスケジュールと練習メニューをつくって持ってきたんです。試合翌日の月曜はオフにして、火曜からテーマを決めた全体練習を1時間、個人の課題練習を1時間、勉強したいものは全体練習後に帰ってもいいと。

(10月)8日から13日までがテストで。テストが終わってから数日後には近畿大会なのでこのメニューで大丈夫か......と思いましたが、これまでもアドバイスはしても基本は彼らが考えてやってきたので、今回もの変えずにいきます」

 この日、練習時には金子は不在だったが、聞けば、準決勝と3位決定戦が行なわれた週もミーティング以外の練習は欠席。学年主任としての仕事が重なったためで、ここにも"普通の公立校"の一面が見える。

「選手は僕がいないことに慣れていますし、監督がいるからやる、いないからやらないというようなチームでは勝てません」

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