「急ピッチ投法」で大阪桐蔭も翻弄。東海大相模のエースは異次元のテンポだ (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 そして新チームになった今、石田は東海大相模のエースとして秋季神奈川大会を優勝に導いた。

 石田に率直に聞いてみた。「急いで投げているのですか?」と。

「急いでいるんじゃなくて、無駄をなくしているイメージです」

 石田は淡々と答えた。試合後の受け答えはじつにフラットで、涼しげ。「目立ってやろう」「天下を獲ってやろう」という野心は滲み出てこない。自分の職務を忠実にこなすサラリーマンのような雰囲気を醸し出している。

 石田が投球テンポを急ピッチに変えたきっかけは、コロナ禍だった。

「練習が休みの期間にいろいろな試合の動画を見て『こうしたほうがいいかな?』と考えていました。強いチームの試合を見たりするなかで、どこかのチームで(テンポの早いピッチングを)やっていて、『これいいな』と思って」

 まずは遊びから早いテンポを取り入れてみた。「守備も間延びしないし、攻撃のリズムが上がる」と考えた石田は、急ピッチ投法を実戦でも取り入れていく。チーム内の紅白戦では野手陣から「いいんじゃない」と好評で、門馬敬治監督からはとくに何も言われなかったという。

 石田のピッチングを見ていて、いくつか疑問が湧いてくる。まず、サイン交換があれだけ早くて不都合はないのか。変化球を握り損ねることはないのか。そもそもサインに首を振りたくなったらどうするのか。

 しかし、石田はこともなげに「ボールを握るのは簡単なので苦労はないです」と語る。決め球のチェンジアップも「スッと入る」と、すぐに握れるそうだ。そしてサインに首を振ることに関しては「首を振りたいときがないです」と断言した。

 捕手も石田の特性を理解して、合わせてくれているという。夏の交流試合は3年生捕手の神里陸、秋の新チームからは1年生の谷口翔生がマスクを被っているが、石田に違和感やストレスはないそうだ。

「谷口が神里さんに、構え方からサインの出し方、出すタイミングまで全部聞いてくれていて、投げやすいです」

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