履正社と大阪桐蔭の「2強物語」。特別な夏から新章が始まった (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

 さらに、代替大会では仲三河優太と吉安遼哉の主軸ふたりを故障で欠いた(仲三河は大会不出場、吉安は準決勝のみ出場)。

 過去の夏の直接対決を振り返るとき、履正社の岡田龍生監督はこんなことを語っていた。

「もうひとり投手がいたら、あとひとり打てる選手がいたら......いつも何かひとつ、足りない時が多かった。桐蔭はそうしたものがあると勝てない相手なんです」

 だが今回、戦力面で不安を抱えていたのは大阪桐蔭だった。だからこそ今年の夏は、いろんな要素を加味したうえで履正社が連敗にピリオドを打つのではないかという思いが強くなっていった。

 しかし、そんな思いを見事にかき消したのが、4回戦のあとに聞いた大阪桐蔭の主将・藪井駿之裕(しゅんのすけ)の言葉だった。

 履正社の選手たちの"打倒・大阪桐蔭"への意気込みをそれとなく伝え、つづけて「履正社をどう見ているのか?」「甲子園がなくなり、昨年の覇者を倒すことがモチベーションになっているのか?」と聞いた時だ。

「履正社はたしかに強い相手だとわかっています。でも、自分たちは日本一になりたくて大阪桐蔭に来たわけで、大阪で勝つためにここに来たわけじゃない。相手がどこだからとか、どこに負けたくないとかというのはないです」

 この10年でも6度の日本一。常に日本一を求め、高校球界をリードしてきたチームで戦ってきた者の思いが詰まった言葉だった。ただ、目標である日本一を果たせない状況で、代替大会を戦い抜くための理由をほかに見つけるのは難しいのではないか。そのことについて藪井に聞くと、少し考えてからこう言った。

「甲子園にも日本一にもつながりませんが、一人ひとりが試合のなかで成長して、日本一を求めてやってきた僕たちの野球をやり切りたい」

 はたして、2強対決の結果は......結論からいうと、履正社が積年の思いを一気に晴らしたかのような戦いで9対3と勝利。夏の大会で21年ぶりに大阪桐蔭を下した。

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