履正社と大阪桐蔭の「2強物語」。
特別な夏から新章が始まった

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

 日本一という結果は、「自分たちのやり方は間違っていなかった」と大きな自信になったに違いない。だからこそ、今年の夏こそ大阪桐蔭を倒さなければならなかった。

 代替大会が進むなかで、ライバル心を隠さなかったのは履正社サイドだった。主将の関本勇輔は大会序盤からストレートな思いを口にした。

「(昨年の)秋から、とにかく桐蔭を倒すことを意識して練習してきました。その成果を見せるのがこの代替大会。絶対に夏の桐蔭に勝ちたい」

 大阪ナンバーワンの強打者と評される小深田大地も、勝ち上がっていくなかで大阪桐蔭への思いを熱く語った。

「一番負けたら悔しい相手。対戦すると決まれば、どれだけ勝ちにこだわって全員でこれまでの悔しさをぶつけていけるかだと思う」

 1年夏からレギュラーの小深田は、2年前の夏に根尾昂(現・中日)、藤原恭大(現・ロッテ)らを擁して春夏連覇を達成した大阪桐蔭に、大阪大会準決勝で勝利まであと1アウトとしながら逆転負けを喫した戦いを経験。"打倒・大阪桐蔭"の思いはここでより高まったと言うが、履正社に進んだ時点でそれは宿命だった。

「履正社に進むと決めた時から『大阪桐蔭を倒さないと甲子園に行けない』と思っていましたし、『僕たちの代で大阪桐蔭に勝つ』とずっとやってきました」

 甲子園開催がなくなり、夏の連覇の挑戦権も失ったチームにとって"打倒・大阪桐蔭"は、チームがまとまるうえでこれ以上ないモチベーションとなった。

 対して、大阪桐蔭はどうだったか。例年、大阪桐蔭は最後の夏に向かうなかで全国の強豪校や大学生との試合を繰り返すことで、チームに特有の一体感が生まれ、西谷浩一監督がよく口にする「塊」となって本番を迎える。

 しかし今年は、この塊となるべく仕上げの時期をコロナ禍によって奪われた。自粛を余儀なくされたのは大阪桐蔭に限ったことではないが、大きな武器を手に入れられなかったことは大きな痛手となった。

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