破綻寸前から再建した創成館のポリシー。野球は守備的、経営は攻撃的 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 野球部の監督に招聘されたのは、社会人・九州三菱自動車で監督を務めた稙田龍生(わさだ・たつお)監督だった。「餅は餅屋。口を出すパワーがあるなら、それを応援に注入する」という奥田校長の理解を受けて、稙田監督が進めたのは「守りの野球」だった。

 攻撃力を前面に押し出す新興チームが多いなか、守備を武器にする野球は一見、古くも映る。だが、稙田監督には信念があった。

「ピッチャーを含めた守り勝つ野球で日本一になりたい。この部分はいじりたくありません。守備がしっかりしていれば、安定して勝てるチームになれますから」

 2020年甲子園交流試合に登場した創成館は、まさにディフェンス型のチームだった。平田(島根)に4対0で勝利した試合後、ノーエラーだった守備について聞くと、稙田監督は力強くこう言った。

「今日は最高のディフェンスだったんじゃないですかね」

 創成館は昨秋の公式戦で9試合を戦って、チーム全体の失策数がわずか1だった。とくにショートの松尾力基(りき)を中心にした内野守備は鉄壁と言ってよかった。松尾は身長166センチ、体重67キロの小柄な選手だが、左右に素早く動けて堅実さもあるフィールディングが光った。

 松尾に好守の秘訣を聞くと、こんなことを教えてくれた。

「冬に『守備サーキット』というメニューで徹底的に追い込むんです。基本の練習だったり、球際だったり、イレギュラーバウンドだったり、そういう練習をやってきたので、今日はこういういい結果が出たのかなと思います」

 稙田監督が守備的な野球をすることは九州では知られており、旧知の中学野球指導者が二遊間の選手を推薦してくれることも珍しくない。二遊間経験のある守備能力の高い選手が集まり、創成館ではほかのポジションへと移っていく。

 平田戦では、2回表に迎えた二死満塁のピンチでこんなプレーがあった。

 平田の9番打者・黒田泰司が放った三塁前のゴロを創成館のサード・照屋寧生(ねい)がさばく。ところが、照屋の送球は指にかかりすぎ、一塁手前で弾んだ。だが、ファーストの長田雄生は、難しいハーフバウンドを柔らかいハンドリングで捕球する。

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