広島新庄、名将のあとを継ぐ難しさ。青年監督が守る伝統と新たな挑戦 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 宇多村がノックで鍛えた守備も底力を発揮した。2年生ショートの瀬尾は時折、軽率なスローイングをして冷や汗をかくシーンもあったものの、高い能力を見せつけた。宇多村は言う。

「ときどきポロッとすることはあるんですけど、普段どおりやってくれれば大丈夫な選手です。もともと守備のいい子でしたが、冬を越してさらによくなってきました」

 昨秋は公式戦12試合で7失策だった瀬尾も、天理戦はノーエラー。7回裏には、先頭打者の山元太陽の三遊間を抜けようかという強烈な打球をスライディングキャッチで抑え、一塁に強い送球でアウトにしている。投手が先発の秋田駿樹から2番手の秋山恭平に代わったばかりの場面であり、チームを救うビッグプレーだった。

 だが、宇多村はニッコリと笑って「瀬尾なら普通のプレーですから」と語った。その言葉に瀬尾への信頼と、自分たちが築いてきたものへの自信がにじんでいた。

 宇多村の人柄を聞かれた瀬尾は、「優しいです」と答えた。

「ノック中でも自分から声を出して盛り上げてくれて、すごくいい雰囲気をつくってくれます」

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 宇多村のノックについての感想を尋ねると、瀬尾の表情が途端に明るくなった。

「普段の練習で監督がすごくギリギリの打球を打ってくれて、球際を鍛えられているので。今日も捕れたのは監督のおかげかなと思います」

 交流試合では存在感を見せられた。だが、宇多村の監督としての真価が問われるのは、これからだ。宇多村は「また新しいチームで甲子園に来て、またノックを打たせてもらいたい」と意気込む。

 宇多村に迫田から受け継いだものは何かと聞くと、こう答えた。

「みんなの心をひとつにして戦えば、力以上のものが発揮されるということを言われてきました。粘り強く、しぶとく。迫田前監督は私の恩師ですし、この部分を引き継ぐのも大事だと思っています」

 迫田は74歳と高齢のため、甲子園には来ずに自宅のテレビで観戦したという。教え子の戦いぶりをどのような思いで見つめたのだろうか。

 時代は急速な勢いで変わっていく。変化についていけない者は淘汰されていく厳しい世界かもしれない。だが、受け継がれていくことで強くなれるものもある。新生・広島新庄の戦いは、それを教えてくれた。

(文中敬称略)

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