甲子園はなくても...高校No.1捕手、
日大藤沢・牧原巧汰が描くデッカイ夢

  • 菊地高弘●文 text by kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

◆「甲子園交流試合」注目のスラッガー10人>>

 試合の前半と後半で、これほどわかりやすく「地獄」と「天国」を行き来するケースも珍しい。プロ注目の捕手・牧原巧汰(日大藤沢)の高校最後の夏は、そんな乱高下のスタートだった。

 8月6日、鵠沼(くげぬま)海岸にほど近い藤沢市八部野球場で、日大藤沢と慶應藤沢の神奈川独自大会2回戦は始まった。昨夏の神奈川準優勝校である日大藤沢が優勢と見られたが、試合は立ち上がりから意外な展開を見せる。

慶應藤沢との試合で高校通算28号となる本塁打を放った日大藤沢・牧原巧汰慶應藤沢との試合で高校通算28号となる本塁打を放った日大藤沢・牧原巧汰 日大藤沢が2点を先制した1回裏、慶應藤沢は連打で一死一、三塁のチャンスをつくると、一塁走者の敦澤快斗がスタートを切った。

 捕手の牧原は投球を受け、すぐさま二塁へ送球。ところが、指にかかりすぎたボールは中途半端なワンバウンドになり、二塁ベースカバーに入ったショートが弾く。牧原が送球した瞬間にスタートを切っていた三塁走者の油川友翔はホームに生還した。

 じつは、この作戦は慶應藤沢が捕手の牧原をターゲットに仕掛けた罠だった。指導する木内義和部長は明かす。

「ランナー一、三塁でのダブルスチールの練習をしていました。牧原くんの左肩が中に入ったら(二塁側に向いたら)、三塁ランナーがスタートする。その練習どおり、キャプテンの油川が行ってくれました。ピッチャーやセカンドにカットされたらしょうがないと割り切っていました」

 ただし、木内部長には牧原が二塁に投げてくる確信があった。

「牧原くんは日本一のキャッチャーですから。必ず自分の肩を見せるために二塁に投げてくるはず。彼だからこそやる価値がある、牧原くん用の戦術でした」

 今年の高校球界には内山壮真(星稜)、関本勇輔(履正社)、二俣翔一(磐田東)などの好捕手がいる。そのなかでも、牧原を「高校ナンバーワン捕手」と推す声もある。

 山本秀明監督の兄であり、臨時コーチを務める山本昌さん(元・中日)もその才能を買うひとりだ。

「バッティングはいいし、スローイングは去年にいいものを見せていました。プロに入ってしまえば、あとはコツをつかめるかどうか。通用する可能性は十分にあるでしょう」

 そんな大黒柱だからこそ、慶應藤沢にとっては揺さぶりをかける意味があったのだ。

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