「畑中が必要だ」。鳥取城北で唯一ベンチ入りの2年生が期待に応えて3安打 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 今大会は原則無観客で開催されるものの、部員と部員1人につき5名までの保護者、家族が入場できる。そのため、部員の多い鳥取城北の三塁側内野席はソーシャルディスタンスを保つと中段から上段まで埋まっていた。

 ブラスバンドによる演奏はなく、観戦者も大声を出しての応援は自粛している。そこで、もっとも原始的でシンプルな拍手という応援スタイルに行き着いたのだろう。筆者は鳥取城北の応援スタンドのすぐ近くのバックネット裏上段で試合を見ていたが、誰かが音頭を取ったようには見えなかった。その拍手は球場中にこだまする、人の心を揺さぶる力があった。

 一塁塁上で拍手を耳にした畑中は言う。

「拍手はよく聞こえました。これだけ応援してくれているんだな......と思いました。絶対に勝ちたい。勝って恩返ししたいと思いました」

 拍手が鳴り響くなか、流れは急速に鳥取城北へと傾いていく。2番の岡本京太郎がデッドボールを受けて満塁となると、3番の河西が二塁打を右中間に運ぶ。畑中がホームを踏み、鳥取城北は逆転に成功した。さらに4番の吉田、5番の安保龍人にも連続タイムリーが生まれ、鳥取城北はこの回4得点のビッグイニングをつくった。

 無観客による甲子園での試合について、ある強豪の指導者はこう言っていた。

「実力がそのまま出て、大阪桐蔭とか力のあるチームが練習試合みたいに存分に力を発揮して、番狂わせが減るんじゃないですか」

 だが、この鳥取城北の熱気ある応援スタンドに象徴されるように、厳密には無観客ではない。スタンドからの拍手と鮮やかな逆転劇は、あらためて応援の魔力を証明しているように見えた。

 畑中は「先輩が絶対に還してくれると思っていた」と証言する。とくに4番の吉田は、昨秋から打撃練習でケージの後ろからアドバイスを送ってくれる、頼れる先輩だった。「開きが早いとか後ろで気づいたことを教えてくれて、それを意識したら結構いい当たりが出るようになりました」と畑中は感謝を口にする。

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