横浜高の背番号1は最速152キロの剛腕。それでも最大の武器は制球力だ (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 それでも、木下ほどの重量感のある球を投げながら、制球力も高い投手を探すのは難しいかもしれない。

 8月5日、夏の神奈川独自大会初戦を迎えた横浜は、先発マウンドに木下を送った。公立の実力校・戸塚を相手に、5回2/3を投げて、被安打1、奪三振9、与四死球0、失点0。試合は10対0の6回コールド勝ち。唯一許したランナーは、ショートのわずか後ろに落ちたポテンヒットだった。

 木下は試合後、「甘いコースにいって一発がないよう、コースにしっかり投げ込めるようにしました」と語っている。左右両コーナーに関しては、ほとんど捕手が構えた位置にボールがきていた。

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 プロ志望の木下は自分の将来像をこのように描いている。

「真っすぐで押して、武器のスプリットを使いこなして三振と勝利数が多いピッチャーになりたい」

 目指す方向は、間違いなく本格派右腕である。だが、木下が持つ最大の武器は、自分の狙ったところに投げられるコントロールなのかもしれない。

 じつは筆者は、中学3年時の木下と「真剣勝負」したことがある。『中学野球太郎』という雑誌の企画で、当時世田谷西シニアのエースとして有名だった木下に対戦をお願いしたのだ。

 中学3年の時点で身長184センチ、体重89キロとサイズは現在とあまり変わっていない。小高いマウンドに立っているだけで中学生とは思えない存在感があり、その時点で最速142キロの剛球があった。

 4打席対戦させてもらい、2つの三振と2つの内野ゴロと完敗だった。当時の木下はツーシームを決め球にしていたが、ウイニングショットはほとんど使わず、ストレート中心の配球だった。木下はのちに「少し振り遅れていたので、真っすぐ中心でいきました」と明かしている。

 たとえ140キロ級のストレートでも、ベルト付近のボールなら私のような大した打者ではなくてもバットに当たるものだ。だが、木下は肩が温まるにつれて、チャンスボールがほとんどなかった。これは何度対戦しても打てない......。そんな絶望感を味わった記憶が残っている。

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