4年後のドラフトは豊作になる。コロナ禍が変えた逸材球児たちの進路 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 また、なるべく早く来年度の推薦枠を埋めたい大学側の事情もある。有望な高校球児はプロに行くか、大学に行くかを早めに決断しなければならない。

 もし、春の県大会が開かれていれば、状況が異なっていた可能性は高い。それは佐々木監督も認めている。

「2人とも2月の三者面談で『プロに行きたい』という希望を聞いていました。春から夏にかけて関東大会への出場を決めてハートを鍛えていければ、高いレベルの力を発揮できるだろうと思っていましたし、プロ志望届を出していたでしょうね」

 もちろん、春の大会が中止になったのは常総学院に限った話ではない。佐々木監督はこんな見方も示した。

「他校の指導者さんからも話を聞いていますが、ドラフト候補が続々と大学進学に進路を変えているそうです。だから、4年後のドラフトは豊作になるのではないですか」

 今年5月の取材時、一條はこんな本音も漏らしていた。

「もし甲子園が開催されて、そこで自分の力をアピールできていたら、たぶんプロに行きたいと言ったと思います」

 甲子園とは、プロ志望の選手にとっては高校時点の一つの目標であり、より厳しい世界で戦うための度胸だめしの場でもある。事実、夏の甲子園で思うような結果を出せなかった選手のなかには「今の実力ではプロなんか無理なので......」と、プロ志望届の提出を見送る意思表示をする選手も珍しくない。

 佐々木監督は公式戦特有の緊張感こそ、選手を育てるのだと力説した。

「今年は大事な試合ができなかったので、ハートを鍛える機会が少なかった。それもワンクッション(大学進学)を置く選択をした理由のひとつだと思います」

 紆余曲折を経て迎えた高校最後の夏。進路を定めた一條も菊地も吹っ切れたようなパフォーマンスを見せた。取手二との初戦に先発した一條は、7回1/3を投げて、許した安打は当たり損ねの内野安打1本だけ。9奪三振、無四球の完璧な内容だった。試合後、一條は胸を張って自分の投球を振り返った。

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