機動破壊→スペクタクルベースボールへ。健大高崎が目指す大仕掛けの野球 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 下はウエイトトレーニングで全身をバランスよく鍛え、食事量を増やして肉体改造に成功。体重は75キロから85キロまで増え、投げるボールが変わっていく実感があった。

「ボールが指にかかる感覚が前までとは全然違いました。あまり力を入れなくても、ボールがいっていました」

 一方、戸丸は捕手を指導する木村亨コーチを質問攻めにしていた。

「いろんなキャッチャーの動画を見て、木村コーチに『どうしてこの選手はこういう動きができるんですか?』と聞きました」

 ブロッキング(ワンバウンドの投球を止める技術)は「体全体でポケットを作って包み込む」感覚をつかんだ。そして、ボールはただ真下に落とすのではなく、体のやや右寄りに落とすことにこだわった。戸丸は「僕は右投げなので、少しでも早く送球動作に移れるようにしたいからです」と明確に意図を説明する。

 ミットが落ちやすかった低めのキャッチングは、「ボールを下から見るイメージ」で改善した。戸丸の成長ぶりに、下は「低めもバチバチ捕るし、昔に比べたら格段にうまくなりました」と笑う。

 互いに手応えを得て、春のセンバツを迎えるはずだった。だが、直前にコロナ禍に見舞われ、3月11日に大会の中止が決定する。

 春をあきらめ、夏に向けて切り替えようともがく選手たちに追い打ちをかけるように、5月20日には全国高校野球選手権大会も中止になった。

 世界情勢を考えれば、「やむを得ない」と理解できる。だが、頭でいくら「仕方ない」と言い聞かせても、簡単に清算できるほど甲子園は小さな存在ではなかった。

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