「キャッチボールは必要?」。ドラフト候補が考えたいきなり全力投球の調整法 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 渡辺のように脚光を浴びたい。日陰で過ごした時間が、伊藤を努力へとかきたてた。その当時から、全体練習で課せられるメニュー以外に、自分でメニューを考えて取り組む習慣ができたという。また、当時から球質のよさは周囲から褒められており、「いつか体ができれば絶対にスピードも速くなるはず」という自信もあった。

 名門の駒澤大を中退して、部員数が少なく環境的に恵まれているとは言えない苫小牧駒澤大に入学した際には、周囲から「なんでやめたの?」と決断を疑問視されることもあった。言い訳をしようと思えばいくらでもできたが、伊藤はしなかった。

「どの大学だろうと、やるのは自分自身ですし、こんな雪が降って設備も整っていない場所を選んで、強くなることに意味があると思っていました」

 大きな飛躍を遂げた一昨年から一転、昨年はやや不本意な年だった。6月の大学日本代表候補合宿に参加した伊藤のボールを見て、私は違和感を覚えた。前年ほどボールが走ってないように見えたのだ。当時の印象を伝えると、伊藤は観念したような苦笑を浮かべてこう明かした。

「2年秋に左足首を骨折した関係で、先ほどお話ししたキャッチボール前の準備がうまくできなくなってしまって......。3年のときはただ気迫だけで投げていました」

 左足を上げ、着地するだけで恐怖感があったため、常にクイックモーションで投げた。足首をかばううちに肩も不調に陥る悪循環。それでも伊藤は大学日本代表に選ばれ、日米大学選手権では全5試合にストッパーとして登板して優勝に貢献する。この経験は伊藤にひとつの自信をもたらした。

4 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る