少年野球の危機に、なぜ80歳
「おばちゃん」のチームは大人気なのか

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro
  • 石津昌嗣●撮影 photo by Ishizu Masashi


 ウルフは2016年に全国大会に出場している強豪チームでもある。必然的に公式戦の試合数は増え、遠征する機会も多くなる。移動経費は年間60万円に及ぶという。とても会費だけではまかなえないが、ウルフにはある秘策があるとおばちゃんは言う。

「子どもたちは団地を回って、古紙回収のアルバイトをやっているんです。これで年間約66万円になるので、年間運営資金の3分の1はまかなえます。子どもたちにとっても、いい労働体験になりますしね。あくまで仕事ですから、しっかりやらない学年はやり直しです」

 おばちゃんの話を聞き、私は何度も強いショックを受けた。こんな少年野球チームがあったのか。いや、こんな強烈なキャラクターのおばちゃんが存在していたのか......と。

 私はその場で「絶対に本を書かれたほうがいいですよ」とおばちゃんに提案した。

 タイミングよく、関西圏で活躍するライターの谷上史朗さんが、独自におばちゃんを取材していたことも追い風になった。谷上さんはT-岡田(オリックス)を高校時代から密着して取材していたのだが、岡田は小学生時にウルフに在籍していた。つまり、おばちゃんは岡田の恩師でもあったのだ。

 谷上さんの協力も取りつけ、おばちゃん初の著書『親がやったら、あかん! 80歳"おばちゃん"の野球チームに学ぶ、奇跡の子育て』(集英社)はとんとん拍子に刊行が決まった。

 おばちゃん自身は「私の話でええの?」と首をひねるが、約50年にわたって実直に貫いてきたその教えは、野球界の危機に一石を投じるだけでなく、子育てに悩む保護者にとって心強いアドバイスとなるに違いない。

 コロナ禍で学校が休校になり、自宅で子どもと過ごす時間が長くなったことをストレスに感じる保護者も多いという。だが、おばちゃんは言う。

「今がええチャンス。この時期に子どもたちにしっかりと家の用事をやらせなあかん」

 緊急事態宣言が解除され、少しずつ前向きさを取り戻しつつある人々に、"スーパー傘寿"おばちゃんの教えは次の一歩を踏み出す後押しになるはずだ。

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