少年野球の危機に、なぜ80歳「おばちゃん」のチームは大人気なのか (3ページ目)

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro
  • 石津昌嗣●撮影 photo by Ishizu Masashi


 ウルフではお茶当番制度はなく、子どもが自分で飲み物を用意するよう指導している。指導スタッフの飲み物にしても、「子どもに自分で用意せえと言ってるのに、大人が人に準備させてたら筋が合わないでしょう」というおばちゃんの方針で、スタッフが各自で用意する。

 飲み物に限らず、ウルフでは「自分のことは自分でやる」というおばちゃんの教えが浸透している。たとえばユニホームの洗濯も、子どもが自分でするそうだ。

 思わず「小学1年生もですか?」と尋ねてしまったが、おばちゃんは力強くうなずき、こう言った。

「子どものときに自分のことを自分でやる習慣をつけておかないと、13歳を過ぎてから変えるのは大変ですからね」

 小学3年生で野球を始めてから高校3年生に至るまで、母親にユニホームを洗濯してもらっていた身としては、耳が痛かった。

練習後は子どもたちに野球の話だけでなく、生きるために必要なことも話す練習後は子どもたちに野球の話だけでなく、生きるために必要なことも話す
 おばちゃんによると、少子化の影響もあり、子どもに必要以上に世話を焼く保護者が増えているという。だが、保護者になんでもやってもらっていては、将来一人で生活する力は身につかない。ましてや男女平等が叫ばれて久しい現代では、夫婦共働きの家庭は当たり前。たとえ小学生の男児であろうと、今のうちに生活力を身につけておく必要があるというのだ。このような指導方針も、ウルフに子どもが集まる要因かもしれない。

 一方で、野球は金のかかるスポーツである。ユニホーム、ボール、グラブ、バット、スパイクと用具一式そろえるだけでも財布から金が飛んでいく。チームとしても大会参加費やグラウンド代など、さまざまな金がかかるものだ。

 だが、ウルフは月額1000円(1〜2年生は500円)の会費ですべてをまかなっている。月額1000円なら、特別安いと感じない人もいるかもしれない。おばちゃんは「創設当初は50円、2018年までは500円やったのに......」と悔しそうだ。

 しかし、この1000円の会費には遠征時の車移動の経費も含まれている。一部の保護者が車を出し、選手が乗り合いで遠征先に向かう際、高速道路料金、ガソリン代、駐車場代は会費から支払われるのだ。

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