少年野球の危機に、なぜ80歳「おばちゃん」のチームは大人気なのか (2ページ目)

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro
  • 石津昌嗣●撮影 photo by Ishizu Masashi


 思わず、「えぇっ、79歳なんですか!」と声をあげていた。半年後の2020年1月には80歳、つまり傘寿(さんじゅ)を迎えるという。年齢だけ聞けば「おばちゃん」というより「おばあちゃん」だが、そんな雰囲気は微塵(みじん)もない。

 そもそも、おばちゃんとは何者なのか。

 おばちゃんこと棚原安子さんは、1972年に夫・長一(ちょういち)さんと少年野球チーム「山田西リトルウルフ(以下、ウルフ)」を立ち上げた。「道ゆく親子連れに『野球やらへん?』と声をかける」という噂は事実で、スポーツ経験の有無にかかわらず子どもを勧誘しているという。最盛期には200名、現在でも140名を超える団員が在籍している。

 安子さんのチーム内での肩書きを説明するのは難しい。過去には監督を務めた時期もあったというが、現在は息子の徹さんが監督を務めている。ウルフのホームページにはスタッフ全員の役職が記されており、「会長」「代表」「監督」「コーチ」「審判員」などの役職が並ぶなか、安子さんの欄はなんと「おばちゃん」になっている。つまり、肩書き自体が「おばちゃん」なのだ。

 ここからは、ウルフの流儀に従って「おばちゃん」表記で統一させていただこう。

 おばちゃんの役割は団員勧誘、会計、子育て指南、イベント時の調理など多岐にわたる。特筆すべきは現在もグラウンドに立ち、選手指導をしていることだ。おばちゃんは「うまい子は放っておいてもうまくなる。グラウンドのはしっこで自信なさそうにしてる子に声をかけて、ノックを打ってやるんです」と語る。

ゴロ、ライナー、フライ、守備位置ごとに正確なノックを打ち分ける棚原さんゴロ、ライナー、フライ、守備位置ごとに正確なノックを打ち分ける棚原さん
 おばちゃんが積極的に勧誘しているといっても、なぜこれだけの人数が集まるのだろうか。最近は各地で「お茶当番」に代表される保護者の負担が苦痛で、子どもが野球をしたくても保護者がチーム入団をやめる例も多いという。

 私がそんな少年野球の現状について触れると、おばちゃんは即座に「お茶当番なんか必要ないですよ!」と言い切った。

「そんなもの、子どもが自分でお湯を沸かして作ってくればいいじゃないですか。親は子どもに、自分の身は自分で守る術(すべ)を教えなあかんですよ」

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