腹切り発言の開星・野々村監督が復帰。切実だった事情と新指導への思い (5ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 推薦した候補は、現役時代に主将を任せた信頼できる人物たち。これで後任人事も安心──そう思っていたが、年が明けた1月末、神妙な面持ちで校長がギャラリーへと現れた。後任候補との交渉がまとまらず、新年度からチームを指導する監督の目途がまったく立たない状況になっていたのだ。

「真剣な表情で『野々村先生、あなたしかいません。何とか監督を引き受けていただけませんか?』と。当然『私が監督なんてありえんですから』と一度断ったんですが、校長先生は『あなたがつくり上げた野球部を立て直す最後のチャンスかもしれません。お願いします』と引かなかった。私が在職していた頃から、校長は『全国大会に出ている部だから』というような贔屓は一切しない方。活動の規模や実績に関わらず、どの部活も平等に応援される方でした。その校長が野球部を守ろうと、自ら汗を流して駆け回っている。その姿を見て、ただならぬ状況であると覚悟を決めました」

 校長の熱意に触れたとき、ギャラリーや年末のOB会で顔を合わせた教え子たちがポツリとこぼした本音も頭をよぎった。

「教え子の多くが『今の開星は応援したくない』と言っていたんです。自分たちがいた時とメンバーの構成も様変わりしているし、礼儀を大切にする風土も薄れてしまっていて、心の底から声援を送れない。昨年の夏、島根大会の決勝まで勝ち進んだんですが、球場まで応援に駆け付けたOBの数がものすごく少なかった。OBたちが誇りを持てない野球部になっている現状も気がかりではありました」

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