腹切り発言の開星・野々村監督が復帰。切実だった事情と新指導への思い (3ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

「とくに絵を書いている時は『ああ、オレはやっぱりこっちだなあ......』と、しみじみ思いました。これが自分の"天職"だと。なかには『現場に戻る気はないの? あんたならまだやれる』とか『県外になるけど、ぜひ(監督に)野々村さんを、と言っている学校を紹介するよ』と言ってくれる人もいたけど、気持ちはなびかなかったね。退任してしばらくは開星の公式戦を見に行ったり、甲子園の試合をテレビで見たりしましたけど、『オレ、ようこんな緊張感のある場で監督やっとったなあ』と恐れおののきましたから。『自分だったらもっとうまく采配できる、勝たせてやれる』なんて、一度たりとも思いませんでした」

 ここ3年近くは「いつまでも自分が見ていたらやりにくいだろうから」と開星の試合で球場に足を運ぶこともほとんどなくなった。プロに在籍する教え子の活躍をテレビで見守るひと時が、唯一の野球との接点だった。

「梶谷(隆幸/DeNA)と糸原がプロにいて、ふたりの活躍を見るのが楽しみでねえ。リアルタイムで見られない時は録画をしておくんですが、いいプレーは繰り返し見てしまいますね。逆に速報で『健斗は今日ノーヒットか』とわかっていたら、そっと録画を消したりね(笑)。そんな感じでプロ野球は見る機会があったんですが、ここ数年高校野球は、親交のある指導者が甲子園に出た時にテレビで少し見るくらい。県内の試合は特に見ていないですね」

 まっさらなキャンバスに筆を走らせるたびに喜びと自分の天分を噛みしめる。勇退後の生活は新たな生きがいに満ち、充実そのものだった。当然、指導現場への未練は一切なく、昨年放送されたあるテレビ番組に出演する際、オンエア前にプロデューサーから「復帰の可能性はないんですか?」と聞かれても「まったくありません!」と即答したくらいだった。

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