騒然の「マトリックス投法」も。
神宮で見つけた地方リーグの個性派たち

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 それ以来、谷口は「フォームについて考えないようになりました」という。だが、本人無意識のうちに、フォームはどんどん大胆に変容していった。いつしか、上体を大きく反らす今のフォームに行き着いた。打者からは「タイミングが取りづらい」と評されたが、谷口としてはその効果は「狙ったわけじゃない」という。

「本当はもっと違うふうにしたかったんですけど、うまくできなくて......。それでどんどん変わっていったという感じです」

 チーム内やリーグ内では、もはや谷口のマトリックス投法は日常的な光景になっている。だが、全国大会ともなるとそうはいかない。今春の大学選手権は東京ドームで、明治神宮大会では神宮球場で、谷口がマウンドに立つたびにスタンドは騒然となった。谷口は登板後、「(スタンドの反応は)投げづらさはありましたけど、気にしないようにしました」と苦笑交じりに打ち明けた。

 金沢学院大戦はわずか1イニングの登板で、チームも敗れた。にもかかわらず、試合後には多くのメディアが谷口を取り囲んだ。質問攻めを受けながら、谷口は終始困惑した表情を浮かべているように見えた。なにしろ、谷口としては狙って変則投法をしているわけでも、目立とうとしているわけでもないのだ。

 今春の大学選手権では142キロをマークしたものの、神宮大会は「本調子になる前に(出番が)終わってしまいました」と本来のスピードは出なかった。来季は厳しい競争を勝ち抜き、主力投手として長いイニングを投げられるか。谷口は「まだ体重が軽いので、もっと増やして球速を上げたい」と課題を語った。

 大学野球といえば歴史のある東京六大学リーグが花形だが、全国各地でさまざまな個性を持った大学野球選手が熱戦を展開している。柳田悠岐(ソフトバンク)は広島経済大、菊池涼介(広島)は中京学院大、秋山翔吾(西武)は八戸学院大の出身。いわゆる「地方リーグ」で腕を磨いた個性派だった。そんな未来の逸材予備軍を発掘しに、大学野球の試合に足を運んでみてはいかがだろうか。

 そして来年の明治神宮大会を観戦しようと考えている野球ファンには、ぜひ厚着をして夜まで野球観戦することをお勧めしたい。

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