元女子大生マネージャーが語る慶大野球部の強さ「悪い補欠がいない」 (2ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

【「補欠思い」のチームは強い】

女性主務としてチームを支えた小林由佳さん女性主務としてチームを支えた小林由佳さん「東京六大学史上初の女性主務」が誕生したのは、秋季リーグ戦が終わったあと。4年生が中心となってデータ班を組織し、バッティングピッチャーを回した。37人が後輩たちのサポートに徹する形でチームはスタートしたのだ。

「監督からの要請で学生コーチになった人も、自分から志願してデータ班に回った人もいます。最後には、みんなが、『どうすればチームの役に立てるか』を考えて、自分で決断しました」

 他大学同様に、甲子園で活躍し鳴り物入りで神宮球場に乗り込んでくる者もいる一方で、高校時代に華々しい実績はないものの、東京六大学でプレーすることを目指して浪人して入ってくる選手もいる。

「みんな、慶應に入ってきたならば、自分が活躍して優勝したいと考えるでしょう。で
も、全員が試合に出ることはできません。だからといって、支える側に回るまでには相当な覚悟が必要なはずです」

「誰かのために」と思う人が多ければ多いほど、チームは強くなる。

「自分が活躍できなくても、チームが勝てばいい。部員たちは、少しずつ、そう考えるようになったのではないでしょうか。優勝を経験したことでその思いは強くなっていきました」

 そんな意識をどうやって共有するようになったのか。小林はミーティングの重要性を説く。

「私たちが最上級生になるとき、試合に出られる4年生が少ないことはわかっていました。なので、3年生の春くらいから定期的に学年ミーティングを開きました。就職活動も考えなくちゃいけない時期になるので、『みんなでひとつのチームだよね』と確認し合いました」

 ときには、練習が始まる前のグラウンドで、あるときは、寮に集まって。「どうやってチームを作るか」をみんなで話し合うことで、同じ意識を持つことができたのだ。

 試合に出る選手は全員の前で決意を述べた。下級生のときにリーグ戦に出ていた選手から「コーチに回る」という宣言が飛び出したこともあった。

「みんながみんな、リーダータイプではありません。でも、それぞれの持ち場で『チームのために』と考えてくれました」

 2018年春季リーグ戦で慶應義塾大学は9勝4敗、勝ち点4で連覇を果たすことができた。これは、 27年ぶりの快挙だった。

「3年生以下の選手がたくさん試合に出ていて、彼らが『先輩のために頑張ろう』と思ってくれたようです。それで、結果的に『補欠思い』のチームになったんじゃないでしょうか」

「補欠の力」とは、他人の能力を素直に認めること。「誰かのために」動ける力なのかもしれない。

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