なにわのド根性注入で帝京魂復活。「馴れ合い」排除で甲子園出場が近い (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 加田は入部当初、地元出身のチームメイトに対して「控え目であまり人に何かを言わないんだな」と感じたという。息が合う小松とともに「チームを変えていこう」と、意識改革を進めてきた。その背景には、帝京OBから託された思いがあると加田は語る。

「OBの方から、いろいろとお聞きしたんです。『今の帝京は馴れ合いになっている。味方同士でも潰し合うくらいじゃないと、本当にしんどいときに力を出せないぞ』と言われました。自分がキャプテンになってから、1つのミスでケンカをしてもいいから、流さずに言い合おうと徹底しています。みんなついてきてくれましたし、今は自分が言わなくても、1年生を含めてみんなが言え合えるようになりました」

 帝京にはかつて、シートノック中にだらしないプレーを見せた選手に対して「どいとけ!」と罵声を浴びせる風習があった。いかにも勝利に対して厳しく、1球にこだわる帝京ならではの風習だったが、いつしか選手間で厳しいことを言い合えなくなっていた。そこで新チームでは「どいとけ!」の声が復活したという。二塁手の小松は言う。

「強かった時の帝京にあって、今の自分たちにないものは何なのか。それを知ることが甲子園への近道だと思うので。練習ではとことんプレッシャーをかけて、厳しく言い合います。みんなには『練習で厳しく、試合で楽をしよう』と言っています」

 大阪出身と言えど、帝京への思いは強い。小松は7歳上の兄・健太さんが熱心な高校野球ファンで、帝京の大ファンだったという。

「兄は智弁和歌山との試合(2006年夏の甲子園準々決勝・13対12で智弁和歌山が帝京に逆転サヨナラ勝ちを収めた大乱戦)を見て、帝京のファンになったんです。僕が帝京に行くことが決まって、帝京のことをいろいろと教えてくれました。厳しいイメージがあったみたいで、『ついていけるんか?』と心配してくれました」

 今秋の東京都大会では関東一、日大三と難関を相次いで突破し、ベスト4に進出。久々の春のセンバツ出場が見えてきたが、前田監督によると「試合が終わってすぐ、選手たちの間から『まだまだ』という声が出ていた」と気持ちが緩んだ様子は見えない。

「なにわのド根性」が注入され、蘇りつつある帝京魂。その戦いには、技術だけでは測れないたくましさを感じる。

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