早くも気になる来年のドラフト。花咲徳栄・井上朋也の打球は音が違う (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 花咲徳栄は技巧派左腕の高森陽生(はるき)、浦和学院は総合力の高い右腕・美又王寿(みまた・おうじゅ)が好投し、試合は投手戦になった。5回裏に浦和学院が、花咲徳栄の守備のスキを突いて1点を先取。その後はお互い0行進が続いて最終回を迎えた。

 9回表、一死無走者で打席に入ったのは井上だった。右腰から地面に垂らしたバットを引き抜き投手に向ける、鞘から刀を抜くようなルーティンは「野村(佑希)さんのマネをしているうちにクセになりました」という。

 ファーストストライクを鋭いスイングで切り裂くと、打球は猛烈なスピードでバックネットに突き刺さった。ファウルになった刹那、井上は表情をゆがめて何事か叫んだ。ひと振りで仕留めきれなかった苛立ちが、その叫びに表れていた。

 しかし、井上はここから意地を見せる。カウント2ボール1ストライクから、スライダーを泳ぎながらバットの芯でとらえ三遊間に運ぶ。浦和学院の好遊撃手・樋口結希斗(ゆきと)に横っ飛びで好捕されるが、井上は一塁へヘッドスライディングして内野安打をもぎ取る。50メートル走のタイムは6秒1と、意外な俊足の持ち主でもあるのだ。

 井上の内野安打を起点に花咲徳栄は1対1の同点に追いつき、延長10回表には1死満塁から井上のライトへの犠牲フライで勝ち越し。土俵際の粘りで「負けられない試合」をものにした。

 2安打1打点と結果を残したにもかかわらず、試合後の井上は淡々としていた。9回の打席で叫んだシーンについて尋ねると、表情を変えずにこう答えた。

「厳しくない球だったのに、打ち損じてしまいました。普段は打てるんですけど、こういう緊迫した場面になるとちょっとしたズレが出る。でも、上にいけばレベルの高いピッチャーばかりなので、浦学のピッチャーでも普通に打てるようにならないといけないと思います」

 長打力が注目されるが、いまホームランを狙って打席に入ることはないという。井上は「形は気にせずに、まず芯に当てることを意識しています。ホームランは出てくれたらラッキーくらいのつもりでいます」と語った。

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