死闘を制した佐々木朗希に見た涙「精神的に追い詰められていたんだ」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 佐々木は笑って「ありがとう。絶対行く」と返してくれた。そして校歌を歌い終わったあと、佐々木が涙を流しているのが見えた。難攻不落に見えた怪物も、精神的にギリギリの瀬戸際まで追い詰められていたのだ。

 あの死闘から3カ月近い時間が過ぎた。及川監督は今も、「あの瞬間だけは、俺たちは高校野球のど真ん中にいたんだよな」と選手たちに話すことがあるという。

 エースの菊地は関東の大学に進学し、硬式野球を続ける予定だ。

「負けたけど一番楽しかったし、記憶に残る試合になりました。あれから大船渡の何人かと仲良くなって、『もう1回やりたいね』と連絡を取り合っているんです」

 殊勲の同点打を放った横山は、大学受験に向けて猛勉強中。大学で野球を続けるつもりはなかったが、「朗希から打てて自信がついた」と国立大で野球を続けようと考えている。及川監督からは「日本の高校生で159キロを打ったのは今のところお前だけだ」と冗談めかして言われるという。

 横山には「教師になりたい」という夢がある。横山は嬉々とした表情で「あの試合の経験を生かして指導していきたい」と語った。

 横山が教え子に「経験」を語る頃、佐々木朗希はどんな存在になっているのだろうか。佐々木の存在が大きくなればなるほど、その経験は「伝説」となって、長く語り継がれていくに違いない。

(おわり)

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