開星・田部隼人の打席に外野4人。伸びしろ期待の遊撃手に吉報は届くか (3ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 指揮官や先輩とともに磨き上げた武器が、最後の夏に輝きを見せる。島根大会決勝の石見智翠館戦、3点ビハインドで迎えた9回、二死一塁で打席に入った1番打者の田部は、2球目の高めのストレートを引っ張りこみ、レフトスタンドに叩き込んだ。田部が振り返る。

「真っすぐ狙いで打席に入っていました。高めに来て『ボールだ』と判断したんですが、自然と体が反応して、気づいたらスイングしていました。『(アウトになる)フライだな』と思いながら走っていたら、打球は想像以上に伸びるし、レフトが動かなくなって。その光景を見て『入ったんだ』と思いました」

 田部のあとを打つ2年生の2番打者も続き、執念の連続本塁打で同点。延長13回に及ぶ激闘の末に甲子園の切符を逃したが、同点劇の口火となった一発で打力を証明した。

 最後の夏に光ったのは打撃だけではない。準々決勝の浜田戦ではサヨナラの走者として出塁した9回に、十分とは言えない飛距離の中飛で二塁から三塁へのタッチアップに成功。守っても準決勝の9回に、遊撃の深い守備位置からノーステップ送球を披露した。

 走攻守すべてで存在感を見せたが、田部のなかには甲子園を逃した悔しさが大きく残った。

「最後の夏は全然ダメだったと思います。決勝の9回にホームランを打てましたけど、その打席まではノーヒット。守備でもエラーがありました。決勝を『すごい試合だった』と周りの方々からは言っていただくんですが、最後に自分たちの甘さが出てしまったとも思っています」

 味わった悔しさが、田部の足をグラウンドへと向けさせた。島根大会決勝で敗れてからも、毎日のようにグラウンドに足を運び、練習に明け暮れている。同学年の選手たちがプレーする甲子園の中継もほとんど見なかった。

「悔しさもあって、甲子園は全然見なかったです。ハイライトを数試合見たぐらいかな」

 U-18W杯日本代表の内野手の多くが、武岡龍世(八戸学院光星)、韮澤雄也(花咲徳栄)らの遊撃手だったように、高校生の遊撃手に多くのドラフト候補がひしめいている。そういった状況のなかで、「自分が持つ強みは何だと思うか」と田部に投げかけると、こう答えが返ってきた。

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