佐々木朗希の163キロを捕った男の真実。指が裂けたのはフェイクニュース (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

「あれは佐々木のボールで裂けたんじゃなくて、もともと裂けていたんです。冬場に乾燥してパックリとひび割れみたいになって、血が固まってかさぶたになっていたんです。そのかさぶたが紅白戦のあとに取れて、指を触っていたら記者の人が『指どうしたんですか?』と聞いてきまして。『ケガしました』と答えたら、『佐々木がキャッチャーの指を裂いた!』みたいな記事がニュースになって......」

 その後、藤田は人から「指は大丈夫?」と聞かれるたびに「佐々木のせいじゃない」と釈明するはめになった。「全治1カ月の裂傷」と報じたメディアもあったが、藤田は「いや、すぐに治りましたよ」と否定する。それもそうだろう。かさぶたが取れただけなのだから。それ以来、藤田は「発言には気をつけよう」と心に刻んでいるという。

 すでにプロ志望届を提出し、10月17日のドラフト会議を待つ身になった。藤田が目指す捕手像は「甲斐拓也さん(ソフトバンク)のような肩と、森友哉さん(西武)のようなバッティングの『打てる捕手』」という贅沢なものだ。身長173センチ、体重73キロと小柄な部類の藤田にとって、低身長ながら球界を代表する捕手になった2人は希望の光でもある。

 もう佐々木朗希のボールは怖くない。最後に藤田は冗談めかしてこう言った。

「どうせなら、次は対戦したいですね。狙うのはストレート。相手の自信のあるボールを打ちたいんです」

 いつか佐々木とグラウンドで再会する日を待ちわびながら、藤田は小さな大捕手への階段を一段ずつ上っていく。

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