佐々木朗希の163キロを捕った男の真実。指が裂けたのはフェイクニュース (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 最大の課題はキャッチングだった。自主練習の時間の多くをキャッチングに割いた。社会人の強豪・NTT西日本で監督経験のある橋本哲也監督からアドバイスをもらうこともあったが、ほとんどが自己流である。現役部員の携帯電話の保持が禁止されているチームのため、キャッチング技術の情報を収集することもできなかった。

「とにかく数を受けるなかで、自分なりにコツを見つけました」

 大きな修正ポイントは2つ。まずは捕球姿勢の重心を以前よりも低くした。「下からボールを見る意識」を自分の体に植えつけた。

 もうひとつは「ミットを地面に置いておくイメージ」だ。あくまでイメージであり、実際にミットを地面に着けることはない。だが、それくらいの意識でいるとミットを「下から上へ」と使いやすくなる。

 この2点に共通しているのは、「ミットが下に落ちないための工夫」ということだ。藤田は言う。

「上に変化する変化球はないので、ミットが落ちないように『下から上へ』という意識で捕るようにしました。上から下へ捕りにいくと、ミットの網や先っぽに入って捕球点がブレてしまうことがわかったんです」

 ブロッキング(ワンバウンドを止める技術)も「止める瞬間に体の力を抜いて、ボールを吸収する」というコツを覚えて、格段に向上した。

 こうしてほぼ独学でキャッチング技術を身につけた藤田は、春にはなかった自信をまとい、夏を戦った。夏が終わる頃には「163キロを捕った男」ではなく、「主将として、正捕手として甲子園ベスト4に導いた男」になっていた。

「4月まで僕は甲子園に1回も行ったことがなくて、あの合宿で初めてトップレベルを体感できました。佐々木のボールを受けて、自分の力が通用しないとわかって、『やらないかん』と思わされました。あの合宿が意識を変えてくれるきっかけになりました」

 ちなみに、藤田を巡ってはこんな報道があった。佐々木のボールを受けたことで藤田の左手人差し指が裂傷を負ったという内容だった。佐々木の剛腕ぶりを物語るセンセーショナルなニュースは日本全国を広く駆け巡った。だが、藤田はこのニュースの意外な「真実」を明かした。

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