佐々木朗希の163キロを捕った男の真実。指が裂けたのはフェイクニュース (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 その後、藤田は佐々木の登板に向けた準備の短さに面食らった。ウォーミングアップはダッシュを3~4本走るだけ。キャッチボールは遠投もせず、5分ほどで終わった。ブルペンでは軽めの腕の振りから12~13球投げただけでいいという。

「まだ春先なのに大丈夫か? アップ不足やん」

 藤田は内心そう思っていたが、実戦のマウンドに立った佐々木はブルペンとは別人になっていた。

「身長が高いからメッチャ近くに感じるし、足を高く上げるダイナミックなフォームと、あの投げっぷりでさらに近く見えるんです。そのうえ、ボールはありえないくらい伸びてくる。今までキャッチャーをやっていて、ピッチャーのボールを怖いと思ったことは一度もなかったんです。でも、この時は初めて『怖い』と思いました」

 先頭打者の森敬斗(桐蔭学園)から三振を奪い、2番目の内海貴斗(横浜)を打席に迎えた3球目。外角低めに外れたストレートを藤田が捕球すると、バックネット裏がざわついた。この日、バックネット裏はスカウト陣が取り囲むようにして紅白戦を視察していた。藤田には、予感めいたものがあった。事実、そのボールが最速163キロを計測したのだ。

 しかし、藤田の体感では「あれよりもっと速いと感じる球もありました」と言う。とくに高めのゾーンは誰も打てなかった。

「あの高めは本当にすごかった。バッターが顔くらいの高さでもバットを振るんです。めちゃくちゃ伸びてくるのが捕っていてわかりました」

 そしてストレート以上に捕球が難しかったのは、やはり変化球だった。

「140キロを超える変化球なんて初めてで、体が全然ついていけませんでした。ワンバウンドを弾きまくって、止められなくて悔しかったです」

 その後、藤田は一躍「163キロを捕った男」と呼ばれるようになる。だが、ひとりの野球選手としては決して気分のいいものではなかった。

「はっきり言って自分のやったことではないし、ただ受けただけなので......。周りから『捕った子やね』と言われても、いい気はしなかったですね。だから自分が活躍して注目されたい、という思いが強くなりました」

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