スカウトが来年のU-18代表かと熱視線。静岡の快速左腕の評判がよい (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 大村に浴びた本塁打以外にも、外野フェンスまで飛ばされる打球は多かった。高田のボールには強烈なスピンが効いているためか、芯でとらえられると打球がよく飛ぶのかもしれない。試合後、そんな仮説を静岡商の高田晋松(しんまつ)監督にぶつけると、高田監督は「それはたしかにあるかもしれません」と答えた。この試合以外でも長打を浴びるケースがあったという。これは回転のいい投手がぶつかる宿命と言えるかもしれない。

 なお、高田監督と高田投手の姓が同じなのは偶然ではない。ふたりは実の親子なのだ。普段は父が「タカダ」または「タクト」と呼び、子は「カントク」と呼ぶ。親子鷹ともなると何かと注目を浴び、チーム内でバランスを取るなど気苦労も絶えない。高田監督は「苦労の連続ですが」と苦笑しながら、こう続けた。

「彼が僕と一緒にやってくれると静商に来てくれて、こういう機会は一生に一度のことなので。『楽しもう』とまでは言えませんが、なかなかできない体験をさせてもらっていると思います」

 高田監督の現役時代のポジションは捕手で、高田監督の父も捕手。もともと高田家は捕手家系だった。だが、息子・琢登は初めてオモチャを握ったときから左手を使っていた。高田監督はその姿を見た瞬間、「これは左ピッチャーになるな」と感じたという。

 それ以来、息子とキャッチボールをする際には右打者のインコースを想定して「ここに強く投げてごらん」と指示した。琢登本人は知らず知らずのうちに、「クロスファイアー」が磨かれていった。今も高田監督は、琢登が投げるクロスファイアーのコントロールに太鼓判を押す。

 悔しい敗戦後、入念なマッサージを終えた琢登は、涙を浮かべることもなく淡々と試合を振り返った。

「いま振り返ると、ホームランを打たれる前にフォアボールを出したことが逆転につながったので、もったいなかったと思います」

 客観的な言葉からも、すでに敗戦を受け入れ、3位決定戦に向けて気持ちを切り替えていることが伝わってきた。この左腕はただ投げるだけでなく、感情をコントロールする冷静さも持ち合わせているようだ。

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