26歳青年監督が名将の采配に学ぶ「伝統校には本当の強さと凄みがある」 (3ページ目)

  • 加来慶祐●文 text by Kaku Keisuke
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 この発言を受けて、竹下も相手の"待ち"にはまってしまったと認めている。

「高田の変化球に対しては対応してくるだろうなと思っていました。とくに、7番の今釘(勝)くんに代表される左打者が、肩口から入ってくるカーブを引きつけて引っ張ってきた。しっかり対策を練られていました」

 馬淵は5回2失点ながら、被安打3と粘り強く投げていた小宮の降板を"追い風"ととらえていたが、藤蔭ベンチはどうだったのか。竹下が振り返る。

「小宮にはいけるところまでいくという話はしていたのですが、相手に対して警戒心が強すぎたのか、抑えているわりには球数が多かったんです。初球ボールから入るケースも多く、正直、アップアップでした」

 試合は明徳が6点をリードしワンサイドゲームになるかと思われたが、藤蔭も意地を見せる。6回裏、高田の代打・川上晃輝がヒットで出塁。続く1番の江口倫太郎の4球目に川上がスタートを切り、江口もセンター前に弾き返した。サインは盗塁だったが、結果的にエンドランが決まった形になった。

「相手が決め球を投げてくるカウントや変化球が多いカウントで、スチールしろという指示を出していました。点差が開いたことで、開き直りも多少あったかもしれませんが、ようやくこちらの指示どおりに選手たちも動けるようになってきました」

 川上のように足があって、動ける選手が出塁したことで、ほかの選手たちにも好影響を与えた。藤蔭はここを起点に打線がつながり、この回だけで5安打を集中し、4点を奪った。自慢の機動力からの攻撃に、「この回に関して言えば、自分たちの色は十分に出せたと思う」と竹下監督は胸を張った。

 しかしその後、両チームとも得点を奪えず、最終回を迎えた。藤蔭はこの回から登板した明徳の2年生左腕・新地智也からヒットと敵失で二死一、二塁のチャンスをつくったが、無得点に終わり試合終了。

 2点差まで追い上げ、7回から登板した3番手の片平真が、3イニングを打者9人で打ち取る完璧な投球を見せた。敗れはしたが、甲子園の常連校相手にその戦いぶりは"善戦"と呼べるものだった。

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