履正社の日本一で始まる新2強物語。
真の王者へ「ある勝利」が必要だ

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Okazawa Katsuro

 両校が初めて夏の舞台で対戦したのは、履正社が初めて甲子園出場を果たした1997年。この時は履正社が2対1で勝利、2度目の対決となった1999年も履正社が1312の乱打戦を制するなど、連勝スタートだった。ところが2005年、辻内崇伸(元巨人)、平田良介(中日)、中田翔(日本ハム)がいた大阪桐蔭が、T-岡田(オリックス)を擁する履正社に11対3で勝利すると、一気に流れが変わった。ここからことごとく大阪桐蔭が勝利を収め、昨年夏も履正社は勝利まであと1アウトとしながら、そこからの逆転負けで11連敗となった。

 T-岡田に夏の大阪桐蔭戦での結果について聞くと、決まってこう返答してきた。

「チーム力を考えると、ウチに何か1つ足りないというのがあって......それでは勝たせてもらえないのが大阪桐蔭。ただ、ウチの力が足りずに勝てなかったという思いなので、僕のなかで夏の大阪桐蔭に対してマイナスイメージはありません」

 両校の間ではっきりと戦力差を感じる年はあったが、近年は秋や春の大会においては対等の結果を残しているだけに、夏にあれだけ極端な結果が出るのが不思議でならなかった。T-岡田の言う「1つ足りないもの」とは何なのか。取材を重ねていくうちに感じたのが、両チームの選手の内面、気持ちの部分ではないかということだ。

 この夏、井上広大に履正社を選んだ理由について聞いたことがあった。井上は大阪桐蔭のある大阪府大東市の南郷中学出身(中学時代の所属チームは東大阪シニア)で、全国屈指の名門に強い憧れを持っても不思議ではないと思ったのだが、こう即答してきた。

「寮には入りたくなかったので、履正社に決めました」

 これまで履正社の選手に同じ質問をしてきたのだが、かなりの確率で井上と同じ答えが返ってきた。進路選択の際に寮か自宅からの通いかというのは、大きな判断材料になる。ただ、選手とのこのやり取りのなかでいつも感じていたのは、履正社の選手たちの言葉に強さがなかったことだ。つまり履正社の選手たちのなかで「寮生活=厳しい環境」というイメージがつくられており、そこに身を置いていない自分たちに対して引け目を感じているというか、そうした部分に弱さを感じることもあった。

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