来田涼斗はタイミングを計れずも凄い男。
課題は0.23秒を制すことだ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 さらに4打席目は相手投手2番手左腕高森陽生が登板した直後、3対3の同点で迎えた7回裏だった。来田は2ストライクに追い込まれると、それまで上げていた右足を地面に着け、ノーステップ打法に切り替える。そして高森の外角に逃げていくスライダーを強くとらえると、レフトをはるかに越える二塁打になった。この一打をきっかけに3番・重宮涼のタイムリーヒットが飛び出し、明石商は接戦を制した。

 試合後、来田の口をついたのは強烈な当たりをった3打席目のことではなく、唯一打ち損じた2打席目への反省だった。

「2打席目だけ合わせるバッティングになってしまったので、そこが悪かったですね」

 ヒットの打席について聞いても浮かれた顔をすることはなく、「でも、やっぱり2打席目が......」とつぶやく。完璧主義者なのかと聞くと、来田は真顔で「はい」とうなずいた。

 こんなものでは満足できるはずがない。来田はそう言いたかったのかもしれない。

 明石商の狭間監督は来田をどう見ているのだろうか。歯に衣着せぬコメントで報道陣から好評の狭間監督は、試合後の囲み取材で来田について聞かれると、少し苦笑を浮かべながら「あいつはまだたいしたバッターじゃないですよ」と語り、こう続けた。

「あいつはタイミングを計れない男なんです」

 そのキャッチーな言葉が気になり、狭間監督にもう少し説明してもらうと、立て板に水のごとく解説してくれた。

「ピッチャーがボールを離したところからホームまでボールが到達するのに0.43秒かかると言われています。高校生のバッターはトップからインパクトまで0.2秒弱かかる。つまり0.43から0.2を引いた0.23秒がバッターに残された時間なんですが、来田はまだその間(ま)を感じられていない。間を感じられる選手が足を高く上げるのはいいんだけど、感じられない選手が足を上げるのはどうなのか。センバツの智和歌山戦だって、(ホームランの)2本とも2ストライクに追い込まれたあとのノーステップだから打てたんですよ」

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