なぜ「史上最弱」沖縄尚学は
センバツ準Vの習志野を追い詰められたのか

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 大阪府内のグラウンドで沖縄尚学の練習を眺めていると、比嘉公也監督から話しかけられた。

「上で野球を続けられそうな選手なんて、そんなにいないでしょう?」

 たしかに一昨年の河野哲平(創価大)、岡留英貴(亜細亜大)のような本格派投手も、砂川リチャード(ソフトバンク育成)のような大砲もいない。

 フリーバッティングでは主将の水谷留佳(るか)が力強いスイングを見せていた以外は、目を引くような打球を打つ選手はいなかった。ブルペンではエース左腕の仲村渠春悟(なかんだかり・しゅんご)が投球練習をしていたが、球速は130キロにも満たないような頼りないボールである。

6回一死満塁からスクイズを決めた沖縄尚学の奥原海斗(写真右)6回一死満塁からスクイズを決めた沖縄尚学の奥原海斗(写真右) 甲子園球場で華々しく開幕日の激戦が繰り広げられていた頃、沖縄尚学の練習会場はごく少数のメディアがいるだけで、注目度の低さを感じずにはいられなかった。しかも、沖縄尚学の初戦はセンバツ(選抜高校野球)で準優勝した習志野(千葉)である。

 それでも、激戦の沖縄大会を勝ち抜いた自信からなのか、選手たちの士気は高かった。そんな練習を眺めながら、比嘉監督がポツリとつぶやいた。

「普通にやれば勝てると思うんだけどな」

 選手としても監督としてもセンバツ制覇を成し遂げた、甲子園の勝利の味を知る男の言葉には不思議な説得力があった。

 今年の沖縄尚学は「史上最弱」と呼ばれていた。ノーシードでスタートした今夏の沖縄大会では、3回戦で優勝候補の一角である沖縄水産を4対1で撃破。前年秋の大会でノーヒットノーランに抑えられた雪辱を果たすと、決勝戦では宮城大弥を擁する興南と対戦。延長13回の死闘を8対7で下した。

 正捕手の岡野真翔は「全国トップクラスの宮城をチームとして打ち崩したことは自信になりました」と語る。

 比嘉監督は「いいピッチャーに勝つには『思い込み』しかない」と言い、興南戦の内幕を明かした。

「興南の試合を見ていたら、相手打者が振っているのはボール球ばかりだったんです。キャッチャーが高めのつり球を要求して三振を取るシーンは見たことがなかった。だから低めを捨てて、ベルトより上にきた球だけを打つよう指示しました。低めのスライダーやチェンジアップで球審の腕が上がっても、それはオーケーだと」

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