広島商は「伝統×今の野球」で復活。個性重視で機動力に強打が加わった (2ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 今春の県大会で優勝し、その2004年の夏以来となるタイトルを手にした。春の準決勝の試合後に荒谷に話を聞いた時、柔和な口ぶりながらも頂点への並々ならぬこだわりが垣間見えた。

また、県1位校として出場した春の中国大会の開幕前日に見た荒谷の姿からも、この夏への執念が感じられた。

 出場各校に45分間ずつ割り当てられた試合会場での公式練習。全体4番目で練習を終えた後も球場に残り、他県の優勝校たちの練習を食い入るように見つめる。

「どこを見ても自分たちより上に見えますね(苦笑)。でも、ものすごく勉強になりますし、やっぱりいろいろ見ないといけないですね」

 夏につながるものをひとつでも多く見つける----。グラウンドからひと時も目を離さない横顔から、荒谷の本気が伝わってきた。

 荒谷が指導面で重視したのが、選手とのコミュニケーションだった。

「伝統を守りながらも、時代に合わせて変えなければならない部分もある。とくに意識したのが、伝え方、コミュニケーションでした。指導者から選手に話しかけていく、厳しく接しつつも、選手個人を尊重する。そのバランスを大切にしてきました」

 チームづくりや采配面でも「選手たちの個性を生かす」ことにこだわった。夏の大会は6試合で49得点。20犠打を記録したが、チーム打率.335が示すように打ち勝ってきた印象が強い。小技を効果的に絡め、ロースコアで粘り勝つ往時の"広商野球"とは少々チームカラーが異なるようにも感じられる。

「若松茂樹前監督が残してくださったいいものを消さない。今の選手たちが持っている個性を生かすためには、(打力に機動力を絡める)現在のスタイルが適切だと感じています。私自身、できていないことが多くありますが、広商の伝統に今の野球を掛け合わせればいいと思います」

 そして、こう付け加えた。

「『バントやスクイズが広商の野球』と思われる方も多いと思います。それぞれの代で自分たちの強みを考えながら、工夫をしていく。そうやって積み上げられたものが広商野球だと思っています」

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