高校野球の新戦術に「継捕」の波。「正捕手なし」にはメリットがある (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Jiji Photo

 須江監督の持論は「捕手が替われば野球が変わる」だ。一口に捕手といっても、人間によって性格も感性も違う。それぞれの持ち味や投手との相性を考え、起用する捕手を決めているのだ。今夏は3年生の猪股将大と1年生の木村航大の2人がメイン捕手として併用された。

 須江監督は「捕手を基準にスタメンを決めることもあります」と語る。たとえば宮城大会準々決勝・仙台戦では「9イニングで勝つことを考えて、まずは守備をしっかりできる捕手を」という狙いから、守備の信頼度がチーム一番の木村を先発に起用した。

 先発捕手を木村に決め、次いで先発投手を木村と中学時代からバッテリーを組む1年生左腕の笹倉世凪(せな)に決めた。試合中盤から猪股を投入し、投手も3投手の継投で3対0の完封勝利を収めた。

この試合以外は捕手陣のなかで比較的打撃力に優れる猪股が先発し、その後に木村が登場するパターンだった。

 しかし、ひとつ疑問もある。「捕手が替われば野球が変わる」ということは、せっかくのいい流れを悪い方向に変えるリスクも秘めているのではないか。

 須江監督に聞くと、「捕手を替えることで悪い方向に流れがいくというのは、ほとんど結果論でしかないと思います」と答えたあと、その根拠を続けた。

「私はトーナメントで試合中に捕手に修正をかけるのは無理だと考えています。でもベンチにいるキャッチャーは、リアルタイムで私と話せるので意図が伝わっています。実際に練習試合や紅白戦を含めて年間300試合ほどやっても、捕手を替えて状況が悪くなることはほとんどないですね」

 仙台育英の捕手起用は数多くの実戦経験のなかから適性を読み取り、監督と選手がコミュニケーションを取っているからこそ成立するのだろう。今年の仙台育英は中心投手が4人もおり、継投戦略を取っている。それだけに捕手にかかる負担の比重は高くなるが、継捕なら選手の個性を生かしながら負担を分散できるメリットもある。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る