霞ケ浦・鈴木寛人に甲子園の洗礼。それでもスカウトは伸びしろを確信 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 6対11で敗れた試合後、鈴木は泣きはらした顔で敗戦チームのお立ち台に上がった。

「球速が出ても、ちゃんと指にかかった球じゃないと全国では打たれるんだとわかりました。気持ちだけが前に行ってしまって、フォームのバランスが崩れていつも通り投げられませんでした」

 1試合で3本のホームランを浴びたことは初めてだという。経験の浅い野手による守備の乱れもあったが、鈴木は「エラーはしょうがないので、自分のピッチングをしようと心がけました」と弁解じみたことは口にしなかった。

 本来であれば、満天下に自分の成長した姿を見せつけるはずだった。春以降の練習試合では強打線で知られる東海大相模(神奈川)や花咲徳栄(埼玉)に打ち込まれ、「オンとオフの切り替えを学べました」と力任せの投球の限界を悟った。その後の夏にかけての練習試合では、桐蔭学園(神奈川)、作新学院(栃木)、東海大甲府(山梨)と関東の名だたる強豪を抑え込んだ。

 今夏の茨城大会では4回戦で第一シードの藤代、準々決勝では好右腕・岩本大地を擁する石岡一と強敵相手のしびれる投手戦を経験。鈴木は「それまではピンチで弱気になってしまうところがあったのですが、そういう試合を勝ち抜いたことで精神的に強くなれました」と手応えを深めていた。それだけに、履正社戦での炎上はショックだったに違いない。

 しかし、バックネット裏のスカウト陣は必ずしも結果だけを見ているわけではない。鈴木の将来性を高く買うスカウトもいる。オリックスの牧田勝吾スカウトはこう語った。

「プロで即戦力の高卒投手をほしがっているチームなんてほとんどないと思います。数年後どうなっているかが勝負ですし、その意味で鈴木くんの伸びしろはすごいものがあります。この結果だけで評価を下げるというほうがナンセンスですし、むしろ下がってくれるならこちらとしてはありがたいくらいですよ」

 試合後、今後の進路を聞かれた鈴木は「プロに行きたいと思っていますけど、ちょっとこれから考えようと思います」と明言を避けた。

 高校時代に甲子園で打ち込まれても、プロで大輪の花を咲かせた投手はいくらでもいる。いつか「あの炎上があったから」と語るための糧にできるのか。未完の大器・鈴木寛人の野球人生は、まだまだこれからだ。

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