監督「ここにしかない魅力はある」。無念の敗戦でも貫いた上尾らしさ (2ページ目)

  • 高木遊●文 text by Takagi Yu
  • photo by Takagi Yu

 現在、指揮を執る高野も上尾OBだ。高校時代は上尾の礎を築いた故・野本喜一郎監督に学び、東洋大学に進むと名将・高橋昭雄監督(当時)の薫陶を受けた。

 指導者としては、前任校の鷲宮で増渕竜義(元ヤクルトなど)を擁して、2006年夏に埼玉準優勝の経歴がある。上尾には2010年に赴任し、今年で9年目を迎える。

 スポーツ推薦はなく、合格の確約がないため、選手獲得で私学に後れを取ることもあるが、高野は「(私学が)強くて魅力があるのは仕方のないこと。上尾もそんな野球をしないといけない」と言い訳は一切しない。

「上尾で野球がしたい」と一般入試で合格してきた選手たちでチームをつくり、昨夏は北埼玉大会で準優勝するなど、たびたび上位進出を果たしてきた。その結果、志の高い選手が入学するという好循環をもたらしてきた。

 また熱気を帯びた練習も魅力のひとつで、シートノックは全員が声を出し、「他人の打球」は1球もない。気の抜けたプレーがあれば、指導者たちだけでなく選手たちからも厳しい叱責の声が飛ぶ。レギュラーも控えもなく、グラウンドに立つ全員が魂を込める姿に「1回の練習体験で心を打たれました」と、入学志願する選手も多い。

 そして試合では、一致団結した応援が見に来た者の心をとらえてきた。大宮東との試合後、応援リーダーを務めた大西翔大(しょうた)は、目に涙を浮かべながらこう力強く語った。

「試合で負けたとしても、あるべき姿があって、やりきることが大事。それは見せられたかなと思います」

 高野もこう胸を張る。

「3年生が残してくれたものを受け継いで、一歩ずつ地道にやっていきたいですね。ここにしかない魅力はあると思うので......」

「上尾が上尾であるために」という伝統を積み重ね、その先には長く閉ざされた扉が開く時がくることを誰もが信じている。それを象徴するシーンが試合後の上尾の応援席にはあった。

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