星稜・奥川恭伸は完封勝利でも50点。まだまだ武器を隠し持っている (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 奥川のピッチングを見ていて頭に浮かんだのが、「上善水如(じょうぜんみずのごとし)」という言葉だった。水のようにしなやかに、水のように強く。打者の顔色を見て、気配を肌で感じながら投球を有機的に変化させていく。それが奥川という投手なのだ。試合前には、こんなことも語っている。

「投げてみないとわかりませんし、相手の反応を把握して、落ち着いて修正できれば。投げながら、バッターの様子を伺いながらボールを投げられればと思います」

 速いボール、凄みのあるボールを投げるポテンシャルにかけては、今年のドラフト候補のなかでは佐々木朗希(大船渡)を超える存在はいないだろう。しかし、野球は凄いボールを投げた者が勝てる競技ではない。投手としての「勝てる能力」にかけては、奥川が今年のドラフト候補のなかでずば抜けている。

 そして試合後、奥川と小学4年時からバッテリーを組む捕手の山瀬慎之助は恐るべきことを口にした。

「本当はもっといろんなパターンがあるんですけど、それを使わずに最低限の力でゼロに抑えるピッチングをしたのはすごいと思います」

 つまり、奥川はこの日、手の内のすべてをさらけ出したわけではなかった。まだ大会中であり、戦略上のことなので詳述は避けるが、きっと次戦以降にその答えを見せてくれるだろう。

 まだまだ、奥川の夏は続きそうな気配が漂ってきた。

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