5季連続甲子園出場の3人が中心。智弁和歌山が挑む「負けられない夏」 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

 高校野球の世界では、よく"経験力"という言葉が使われる。2004年のセンバツで史上最速となる創部3年目で日本一に輝き、同年夏も甲子園準優勝に輝いた済美の話を、当時の監督である上甲正典に聞いたことがある。

「選手は本当によくやってくれました。経験力っていうのはすごく大きくて、ウチの選手たちは創部と同時に入ってきました。つまり先輩がいないから、1年の時からすべての大会に出て経験を積んでいったんです。3年になった時には『どこと対戦しても負けられない』という気持ちになっていたんじゃないかな。それくらい、高校生にとって経験というのは大きいんですよ」

 黒川にあらためて連続出場することへのメリットを聞くと、「5季連続というより、甲子園で4回負けてきた。そこを経験していることが一番だと思っています」とキッパリ言い、こう続けた。

「負けを知って成長できたということを、野球をやるなかで感じてきました。だから甲子園で4回も負けを経験できたということを、この夏、絶対に生かさないといけない。負けたからこそ悔しくて練習をやってきたし、強くもなれた。だから結果につなげないといけない」

 そんな黒川の言葉を聞きながら、高嶋の口癖が脳裏に浮かんだ。

「選手が伸びるのは、腹の底から『くそったれ!』と思う悔しさを味わった時」

 黒川たちにとってひと際大きかったのが、昨年の大阪桐蔭の存在だ。根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)らが最上級生となった代のチームとは、一昨年秋の近畿大会、昨年のセンバツ、春の近畿大会と3度対戦し、いずれも敗れた。しかし、史上最強とも言われたチームと公式戦で3度、しかも黒川、東妻、西川らは2年生として対戦した経験は智弁和歌山に大きな財産を残した。

 では、王者・大阪桐蔭との対戦は、黒川たちのなかに何を残したのだろうか。

「大阪桐蔭には『日本一になる』というだけじゃなく、『達成しないといけない』という雰囲気を感じました。だから日本一を目指すなら、チーム全員が本気で『日本一になる』と強く思わないと達成できない。キャプテンとしてそこは言い続けてやってきました」(黒川)

「日本一になるためには、大阪桐蔭のあのレベルまでいかないといけない。登録メンバーに入っていない選手も『日本一になる』と徹底して練習に取り組んでいるという話を聞いて、自分たちもそこを求めて1年間やってきました」(東妻)

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