昨夏からメンタル強化も実らず。
高校BIG4・西純矢は美しく負けた

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

 その後も好投を続けて勝ち進み、引地秀一郎(現・楽天)と投げ合った昨年と同じく準決勝で倉敷商と対戦。6回に犠牲フライで先制を許し、7回にも3安打を集められての1失点。自己最速を更新する154キロを記録したものの、0-2で夏を終えた。試合後、西はこう振り返った。

「(5回終了時の)グラウンド整備が終わるころぐらいから『しんどいな、腕が振れなくなってきたかな』と感じていました。でも、自分らしいピッチングはできたかなと思います」

 西が終盤から疲労を感じたのも無理はない。この夏、岡山県内の他校が意識していたのは「西の直球にどうやって対応するか」である。速球対策の効果もあり、直球をファウルにされるなど、スコア以上に苦戦を強いられる試合や場面も少なくなかった。

 倉敷商が勝利の校歌を歌い終えた直後、チームの誰よりも早く応援団の待つスタンドへと駆け出した。ここにもある思いがあった。

「自分も悔しい思いがあったんですが、誰かが(率先して)行かないといけない。みんな泣いていたので、自分が行こうと思いました」

 高校最後となったこの試合、西の成長が強く感じられる場面があった。3回の守りで、下級生の三塁手がゴロを弾いた時だった。二死を奪ったあと、相手1番打者に安打を許した直後のプレー。以前の西なら心を乱してもおかしくない場面だったが、笑顔で後輩を気遣った。帽子に記した"誓い"に目をやることもなく、極めて自然な笑顔だった。

「エラーは仕方のないことだと思います。ここまでも仲間に助けてもらってきましたし、サードは2年生。下級生をやりやすくする意味でも、自分が怒らないことが必要だと思っていました」

 西の成長を称えるかのように"球運"も転がり込む。失策直後に相対した3番の痛烈な打球は、吸い込まれるかのように投球フィニッシュの体勢をとっていた西のグラブに収まった。

 9回表の攻撃は、先頭打者として打席に入った。自チームのスタンドだけでなく、球場中から沸き起こる拍手。集中力を研ぎ澄ませながらも、西の耳にも歓声は届いていた。

「拍手は聞こえていました。自分たちをあんまりよく思わない方もいたと思います。でも、最後に拍手をもらえてうれしかったです」

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