昨夏からメンタル強化も実らず。
高校BIG4・西純矢は美しく負けた

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

「落ちにくいように」という長澤宏行(ながさわ・ひろゆき)監督の親心で、形状を丸帽に、カラーを白に変えた新しい帽子を目深にかぶり、アウトを取った後も表情を変えずにベンチへと帰っていく。新スタイルに手応えを感じていたが、勝てばセンバツ当確となる中国大会の準決勝で厳しい現実を突きつけられた。

 自身の出身地でもある広島の強豪・広陵との大一番は、相手エースの河野佳とお互い譲らぬ投手戦を展開し、7回を終えて1-0。しかし8回、自身のバント処理のミス、下級生の内野手の失策が重なり、一挙6失点を喫した。結果は7-0の8回コールド負け。投球内容以上に、ミスが出たときの険しい表情など、感情をコントロールできていない姿が目立った。夏が終わったあとの取り組みを自らふいにする一戦で、2度目の甲子園が大きく遠のいた。

 この敗戦を受けて、見つめ直したのがメンタル面だった。

 専門の講師を招いてのメンタルトレーニングに力を入れ、「ピンチの時、苦しい時ほど笑顔でいる」と強く意識するようになった。毎日野球ノートに向き合い、日々自分のなかに芽生える感情に向き合い続けた。2年冬に西を訪ねた際は、こう語っていた。

「最近紅白戦で投げていても、周りから『守りやすくなった』と言ってもらえるようになりました。味方にミスが出た時ほど、笑顔でいるように意識しています」

 高校最後の夏、公式戦用の帽子のツバにも「笑顔」としたためた。何度もペンで塗り重ねた大きな文字ではなく、小さく、シンプルにツバの一部分に書き記した。理由を尋ねると、少し恥ずかしそうな笑みを浮かべながらこう答えてくれた。

「あまりこういった部分で目立つのは嫌なので......(笑)。最後の夏も笑顔でいることは忘れないようにしたいです」

 球速も3月のブルペンで自己最速の153キロを記録。球数を抑える狙いでスプリットを習得するなど、精神面だけでなく、技術面にも磨きをかけて勝負の夏を迎えた。

 初戦の岡山南戦は、時折強い雨が降るなかでの試合となり、「雨のなかだったので、去年の甲子園(2回戦・下関国際戦)を思い出して『嫌だな』と感じました」と語ったが、心を乱すことなく投げ切った。

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